ウルシステムズ
事業部長
林 浩一

Webインフラをツールとして使う「普通の企業」にとって,Web2.0はどんな価値を持つのか。ビジネスやシステム整備にどう適用すると,どんな可能性が広がるのか。一つひとつ読み解いていく。(ITpro)



 2006年にIT業界をもっともにぎわせたキーワードは「Web2.0」――。こう言い切っても構わないはずだ。さまざまな単語に2.0を付けて「××2.0」と表現することが流行した。梅田望夫氏が執筆した「ウェブ進化論」の影響から,「ネットのあちら側,こちら側」という表現もあちこちで見られた。 このような中,今さらWeb2.0とは何かを議論する必要はないだろう。

 ただ,一通りWeb2.0は何かを知った後で,「Web2.0って,結局何(So What)?」と疑問に思われた方も多いはずだ。

 筆者はしばしばこんな相談を受ける。

 『Google MapsやAmazonのWebサービスなどが大きな流れを作ったのはよくわかった。その流れを汲み,インターネットの世界でどんどん新しいサービスが登場しているのも当然のことと理解している。しかし,それはインターネット・ビジネスの世界に限った話のように思う。最近,Web2.0を企業内に適用しようという動きがあるようだが,自社のビジネスや社内のシステムにどう生かせるのか,どうもピンとこない』

 とりわけ,経営企画や事業企画に携わっている方には,同様の感想を持つ人が多いはずだ。そんな感想を持つことは,決しておかしくはない。Web2.0関連の話題の多くは,いわゆるインターネット・ビジネス企業の“応援歌”になっていて,インターネット上のサービスで収益を得ているわけではない「普通の企業」にとっては,よくわからないものだったからだ。

 異論はあるだろうがあえて言い切ると,Web2.0は「Webインフラを活用するためのベストプラクティス」を指す。ほとんどの企業内で標準になっているWebインフラの活用手法なので,インターネット・ビジネスを主軸としない企業にとっても,有用な要素が数多く含まれている。

 本連載では,Webインフラをツールとして使う「普通の企業」の立場――梅田望夫氏の言葉を借りると「ネットのこちら側」の企業にとって,Web2.0がビジネスやシステム整備にどう適用すると,どんな可能性が広がるのかを読み解いていきたい。


ビジネス,業務,構築いずれにも寄与する「2.0」

 Web2.0の議論は,特に「普通の企業」に在籍し,かつ経営的な視点でITを考える立場の方にはピンとこない話が多かった。これまでネットや雑誌などに書かれてきたWeb2.0の解説は,インターネット・サービスを構築するための技術的な視点,そしてそのサービスを使うユーザーの視点で書かれることがほとんどだったからだ。

 それらの解説は,「Web2.0でどうやって収益を上げるのか」という経営の面についてはほとんど言及していない。無料で使える便利なサービスが登場して嬉しいとか,エンジニアが楽になって素晴らしいというエピソードでは,よほどネットや技術の動向に敏感な人以外は検討につなげられなかったとしても不思議はない。

 では,インターネットをビジネスの場ではなくツールとして考える企業にとって,Web2.0は「経営の立場」から見るとどんな意味があるのか。整理し直してみよう。

 まずは図1を見ていただきたい。筆者がITと経営の関係を分析する際,次の三つの観点で評価することにしている。ビジネス創出(Business),業務効率化(Operation),システム構築(Development),だ。ITが経営にどう貢献するか上の意味を把握するのに便利な枠組みで,頭文字をとって「BOD評価」と呼んでいる。ビジネス機会要求の要求(Business Opportunity Demand)という意味も併せ持っている。それぞれの観点を解説する。

図1●ITと経営の関係を知るための3つの観点
図1●ITと経営の関係を知るための3つの観点

■ビジネス創出
 この観点では,「ITを使って新しい収益が得られるビジネスモデルを生み出すことができるか」を見る。念のために解説すると,ビジネスモデルとは,誰にどのようなサービスを提供しどのように代価を得るかという枠組みを指す。経営の立場からは,新しいサービス提供による収益の増大を意味する。

■業務効率化
 「ITを使って業務の効率を改善できるか」を見る観点である。言わずもがなのことだが,情報システムが提供する機能によって,業務の効率は良くも悪くもなる。全体最適の視点で無駄な作業を減らし,円滑に進められる業務プロセスにすることが重要だ。とりわけ新規ビジネスを進める場合,運営に必要なオペレーションまで設計しておかなければ,サービス提供に支障をきたすことになる。業務効率化を経営の立場からとらえると,サービス運営のためのランニング・コストの削減を意味する。

■システム構築
 この観点では,開発の生産性を高めて高品質な情報システムを小さなコストで構築できるかを見る。システムの目的がビジネス創出のためだったとしても,業務効率化のためだったとしても,システム構築にはコストがかかる。この観点を経営の立場からとらえると,サービス実現のためのイニシャル・コストの削減を意味する。