Dale Kutnick氏  
Gartner社
Dale Kutnick氏,
Senior Senior Vice President

Outline
■ ITはビジネス要件へと「昇格」
■ CEOの視点で経済と社会を見てみよう
■ 日本のIT組織はビジネス・スキルに遅れ
■ CEOはITに期待していない
■ それでもITはビジネスを変える
■ 小さな村からあなたの会社に注文が来る時代へ
■ 「ITで地球を救う」くらいの気概で
■ ハードとソフトがビジネスの革新を左右
■ ソフトの課題は相互接続性
■ 企業のあり方を変えたネットワーク技術

ITリーダーが新しいビジネス環境の中で何をすべきか。成功するためには何が必要なのか。これが今回のテーマです。対象は,CIOだけではありません。CIOの直属の部下も入ってきます。アプリケーション・マネジャ,ビジネス・インテリジェンス・コンピテンシー・センター(BICC),ビジネス・アナリスト,エンタープライズ・アーキテクト,IT基盤運用マネジャ,最高情報セキュリティ責任者(CISO),ベンダー管理オフィス(VMO),プログラム管理オフィス(PMO)なども入ってきます。今列挙したのは,CIOに直接,業務報告をする人たちです。

CIOはますますビジネスの成長を促す役割を担うようになり,ビジネス・リーダーとともに過ごす時間が増えています。つまり,ビジネスの課題に取り組む時間が増えています。

20年前はどうでしたか。私はこの業界に30年いますが,20年前は,技術が主でした。技術に特化した課題に取り組んでいました。どういった開発環境を使うのか,ネットワークプロトコルを使うのか,IBMのシステムとミニコンピュータ,あるいはPCとの通信をどうするのか,ということを考えていました。

現在,CIOは上級幹部になりました。これは世界中で見られる現象です。そして責任としては,技術的なタスクは直属の部下に委譲しているわけです。もちろん,そこの重要性が増しています。規制も増えています。また,グローバル化も促進しているということで,いかにしてITでグローバルネットワークを支えるかを考える必要があります。

CIOだからこそできることがある

ITは,もはや孤立したものではありません。ビジネスの環境の中に存在するものとなりました。これは15年前,20年前とは違うものになっています。次のOSがどうなるのか,といったことだけではなく,ビジネス環境で何が起きているのか,ビジネス側のニーズが何なのか,ITのリーダーはそこを見ていく必要があります。そしてITでいかにして収益性を高めていくいくのか,売上を伸ばしていくのかを考えなければいけません。以前からこういった課題はありましたが,IT部門はビジネスとの関わりをあまり持っていませんでした。

今後CIOが取り組むべき課題の1つは,あるビジネスを実現していく役割をどうやってITが果たしていくのか,つまりIT部門がどう成長に貢献していくのかを考えることです。

それは,単にユーザーの求めていることを提供すればいい,というわけではありません。例えば事業部門側が,より速いネットワークが必要,あるいはメモリーがもっと必要,ストレージが必要などと言ってきた場合,それに迅速に応えるのはいいわけですが,仕事の一部でしかありません。会社を進化させるうえで,ITはいま大変重要な位置を占めています。成長に貢献するには,ITによるイノベーションが欠かせません。

ITを使うと,以前では考えられなかったサービスが可能になります。5,6年前では実現できなかったことが,いまできるようになります。それをプランすることがCIOの役目ですし,CIOだからこそできることでもありません。

一例を挙げましょう。流通分野では無線ICタグ(RFID)に注目が集まっていますが,それをただ単に使うだけでは十分ではありません。より重要なのは,RFIDを使ってビジネスプロセスを変革することです。新しいビジネスプロセスで効率性を上げ,これまで取得できなかったデータを取得し,顧客にリーチできます。データを取得できるポイントや切り口が増えるため,マネジメントが知り得る範囲も一気に拡大します。そうしたとき,経営はどう変わるか。CIOはこういった視点で物事を考えていかなければいけないわけです。

まずは押さえたい「CEOの視点」

ITリーダーが取り組むべき課題や,今後ビジネスとテクノロジーがどのように進んでいくのか,もう少し詳細をご紹介しましょう。

まず,2006年と2007年前半の経済とビジネスのトレンドを見ていきます。要するに,CEOの視点です。ITとビジネスが密接に関わる今,CEOの視点で物事を捉えることがITリーダーに求められています。

まずは経済の状況を概括しましょう。2006年における世界のGDP成長率は,およそ3.6%から3.7%と言われています。その伸びは,アジア太平洋地域の国,例えば中国やインド,韓国などがけん引しています。一方,米国も3%程度と,かなり強く成長しています。私個人的にはこれは長続きしないと思いますが,年初に予測された以上に経済は元気です。

中国は9%の成長率ですが,先般「9%以上で成長を続けている」という発表がありました。中国は市場全体が強くなっています。中国をはじめ,アジアはインドや韓国の成長がけん引しており,かなり強い市場として成長すると思います。日本のような国が,能力の一部をそうした国々に輸出しているからです。

CEOは企業のリーダーとして,まず成長するにはどうするかを考えています。役員や株主がそれを求めているからです。過去4,5年,ほとんどのCEOは利益や収益に目を向けていました。決してCEOがそれらに目を向けなくなったと言っているのではなく,ビジネスの中からコストを削減してきたのです。例えばレイオフや給与のカット,保障のレベルを下げるといった取り組みをしてきました。2000年から2002年にかけての停滞期は,そういったコストカットを実施してきました。

一方で今年を見ると,CEOはまずは成長に目を向けているわけです。非常に良い傾向だと思います。皆さんITリーダーはコストカット実現のためのイネーブラになるのではなく,成長に貢献をすることをCEOから求められます。もちろん,むやみに支出をできるというわけではないと思いますが…。ただ,少しは支出する可能性があるわけです。もしあるプロジェクトがビジネスの成長に貢献できると説得できれば,非常に有利に進めていけるはずです。

CEOは次に競争環境を考えます。中国やインドは製造業の競争力が上がっています。知的財産という面でも強くなりつつあります。また,市場としても両国は台頭してきました。インドはサービス,製造においては中国です。また,イノベーションも見られます。競争が益々厳しくなってきています。市場がグローバル化する中で,ますます加速していくと見られています。

こうした状況において,CEOによってITに対する意見は分かれます。ITが企業の価値を向上させると考える人もいる一方で,阻害要因にもなると考えている人もいます。数年前,経営誌ハーバード・ビジネス・レビューに,「IT Doesn't Matter」という記事が掲載されました。つまり,ユーザーの間で,かなりの意見の食い違いが見られるということです。

Gartnerは,ITは競争の優位性確保に大いに貢献できると考えています。そのためにも,ITリーダーはテクノロジーだけではなく,もっとビジネスに関与するべきです。これを心がければ,ITによる経営のイノベーションを提供できます。ITはビジネスプロセスを新しい形に組み変えることを可能にします。全く新しいビジネスプロセスを生み出すこともできます。労働集約型のやり方をシステムで自動化できます。

つい昨日,私はあるCIOと話をしていました。このCIOは,10年,15年前に比べるとネットワークのトラフィックが急激に増えたと言います。10年,15年前は電子メールはまだ使っておらず,テレックスやファクシミリを使っての通信でした。ところが電子メールの普及により,今や当時の500倍もの情報量があるというのです。ITリーダーは企業に集まる情報量の現状を把握し,調整していかなければいけません。

それからM&A,企業の合併や買収も加速化しています。今後さらに多くの合併,買収案件が発生するでしょう。しかもそれはグローバルに展開されています。アメリカだけ,ヨーロッパだけという話ではなく,世界の国や地域を横断する形でM&Aが実施されています。