Charles Abrams氏  
Gartner社
Charles Abrams氏,
Research Director

「Web2.0」を構成する考え方や技術を企業に導入し,自社サービスの改善や組織変革に活用しようという動きが勃興している。米国を中心に「Enterprise 2.0」という言葉が言われるようになってきたほどだ。Web2.0と企業はどう絡み合っていくのか。その可能性をガートナーのアナリスト,Charles Abrams(チャールズ・エーブラムズ)アプリケーション リサーチ ディレクターに聞いた。
(聞き手・構成は高下 義弘=ITpro)


近年のネットの動きを象徴する「Web2.0」が話題になっています。Web2.0は本当に企業を変えうる力を持っているのでしょうか。

 2006年,「YouTube」が話題になったのはご存じの通りだ。2人の若者がビールを飲みつつアイデアを出し合って作ったサイトが,約16億(ドル)でGoogleに買収された。これは何を意味しているか? ITのテクノロジとアーキテクチャ,それにとどまらず経済は,明らかにWebベースに移行している。企業のあり方やビジネスに影響を与えないわけがない。

 「(ニッチ商品が大きな収益を担う)ロングテール経済」,「群衆の叡智(Wisdom of Crowds)」,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス),「永遠にベータ版」。こうした最新のWebの動向,あるいはWeb2.0を象徴するキーワードは,近年の「第二次インターネット革命」の起爆剤となった。渦中の今は自覚しづらいものだが,第二次インターネット革命は,現代のビジネスと社会に大きなインパクトをもたらした。

 世間ではあまり言われていないが,今後数年に起きるであろうITと社会の変化を捉える上で,「デジタル・ネイティブ」を理解することが欠かせない。デジタル・ネイティブとはガートナーが掲げているもので,ITの原理までは知らないまでも,ITを日常の道具として苦もなく使いこなす人々のことを言う。年齢による厳密な定義はないが,ティーンエイジャー,せめて20歳代前半だ。こうした人々が社会に本格的に進出してきたらどうなるだろうか? ネットがより強大な影響を持つようになるはずだ。

あらゆるシステムを変えうる2.0

 Web2.0化,そしてデジタル・ネイティブが進出したことによる,2006年から2011年の電子社会を考えてみよう。電子商取引の規模は実店舗をしのぐようになるだろう。各Web店舗は各顧客ごとの「パーソナル化」を実現する。レコメンデーション・エンジンをフル活用し,その顧客の好みにあった商品やサービスを全面に押し出す。広告は顧客のコンテキスト(プロフィールや趣味趣向,購入履歴など)を意識したものだ。Web店舗の商品・サービスの品揃えは当然,ロングテール経済を考慮してニッチ層にも満足いくものになっている。

 ネット上に形成された顧客によるコミュニティは,消費動向を大きく左右する。ブログはテレビや新聞,雑誌といった伝統的なメディアに対峙する,より大きな存在になるだろう。米国では政治にまで影響を及ぼしている。全世界の人口は約64億。全員とまでは言わないまでも,そのうちかなりの人々が自分の意見をWebにアップした世界ってどんなものだと思う?

 ネットは最適なマーケティング・チャネルとしての地位をより強固なものにするだろう。現在,ブロードバンド・インフラは世界中で整備が進んでいる。ネットワークにアクセスする人口の増加は,ますますロングテール経済の進行を加速する。これまで一般的に,主にマスに向かってメッセージを投げる広告活動と,個々人に語りかける販促活動は背反する存在だった。つまり,雑誌やテレビに打つ広告は,基本的には一人ひとりへのメッセージにはならなかった。だが,ネットは違う。Webメディアに打つ広告はパーソナライズ機能を経て,個々人に訴えるメッセージへと変化させることを実現したのだ。

 それでもWeb2.0が企業に影響がない,などと言えるだろうか。一般消費者向けビジネス,企業向けビジネス,社内向けの情報システム,立ち返って組織のあり方や働き方。いずれにも大きな影響を及ぼすムーブメントであることは間違いない。