亦賀忠明氏  
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亦賀 忠明 氏

これまでのテクノロジによるメインフレームの衰退,オープン・プラットフォームの進展など,さまざまな動きが見られる基幹系システムはいま,歴史的な転換点を迎えています。

そんな中,「企業を支える基幹系システムのプラットフォームは,今後どうあるべきか」という議論が活発になりつつあります。

将来あるべき「新基幹系システム」はどのような姿になるのでしょうか。システムの基盤製品を提供しているITベンダーの動きを見つつ,読み解いていきましょう。

世界のメインフレーム市場はそれほど落ち込んでいない

基幹系システムは,停止してはならない重要な社会インフラとなっています。例えば銀行の勘定系システム,生命保険の業務データを扱うシステム,証券取引システム,クレジットカードの決済システム,製造業の生産管理システム,官公庁の各種業務システムは,基幹系システムの代表的なものでしょう。

これら基幹系システムの多くは,メインフレームで稼働しています。もちろん,オープン系のサーバーで動いているものもありますが,それは現時点では例外的と表現すべきものかと思います。

メインフレームに関しては,「消えゆくプラットフォーム」あるいは「今後も消えない」などさまざまな議論がなされています。私はその背景には,富士通,NEC,日立製作所,米IBM,日本ユニシスといった基幹系システム向けの製品を提供しているITベンダーの説明不足があると考えています。

日本ではメインフレームはこの先消えるとも言われていますが,実際はどうでしょうか。日本のメインフレーム市場のデータを見てみると,過去10年間,メインフレームの出荷台数は基本的に減少を続けています。

一方,世界全体におけるメインフレーム市場は,日本ほど顕著には落ち込んではいないのです。大きな変化といえば,米IBMによるほぼ独占状態になりつつあることでしょう。その他のベンダーのメインフレームは減少し続けています。

つまり,この先15年間のスパンで考えた場合,富士通,NEC,日立製作所による「国産メインフレーム」は厳しい状況になると予測できます。ここ数年間,「レガシー・マイグレーション」といったキーワードで,メインフレームからオープンへの移行というテーマが国内で展開されてきた理由はここにあります。

ただユーザー企業にとってはこの「オープン化」には当然,疑問や懸念があるわけです。オープンではやはり信頼性が足りないのではないか。オープン系への移行コストはどの程度かかるのか。「リスクやコストの話は,ベンダーさんに聞いてもよくわからない」。ユーザー企業の間ではこんな議論がここ数年展開されてきました。かといって議論の結果,方向感が出たかというと必ずしもそうではありませんでした。

世界のサーバー市場のデータを見てみますと,必ずしもメインフレームが減ってオープン系が増えたわけではありません。オープン系のシェアはそれほど伸びていないのです。

混沌の中から次世代インフラを考える

日本市場について見ると,メインフレーム市場は大きく減少しました。そのためレガシー・マイグレーションが非常にホットな話題となりましたが,それは2003年ごろまでの話で,ここ数年はトーンダウンしています。要するに日本においても世界においても,メインフレームからオープンへという流れはそれほど明確ではないのが実態です。

かといって,私がIBM製メインフレームが全てにおいてベストな解であるということを言いたいわけではありません。このような市場の状況を見た上で,次の基幹系を支える基盤をどう選択していくかが,ユーザー企業にとって必要なことである----。これが私のメッセージです。

日本ではレガシー・マイグレーション,あるいは複数台のサーバーを統合する「サーバー・コンソリデーション」は引き続き注目されるテーマです。しかし,受け皿となる移行先を何にするべきか,どうやってシステム全体を最適化していくかといった本当に根本的なところから議論する風潮がないのを私は懸念しています。本当にこれまでの業務システムを完全に移行できるのか。この先10年の要件に耐えるのか。これらのポイントを検証してから次の移行ステップを決めるのがあるべき姿ではないかと考えています。

同じオープン系といっても検討すべき要素は多岐にわたります。例えばサーバー機について言えば,大型サーバーを使うのか,それともブレードサーバーを使うべきか,用途や環境により選択すべき形態は変わります。この点を整理して「受け皿の議論」をもう一度実行する必要があるのが,2006年から2007年というタイミングです。

いまユーザー企業が考えるべきポイントは二つあります。一つは,現状のシステムから新基幹系システムへの移行をどうするか。もう一つは,新基幹系システムを含めその先のシステム基盤をどう考えるかという「次世代インフラ」の視点です。

メインフレームとオープンの「良いところ取り」

これまで基幹系システムの基盤として活躍してきたメインフレームには,当然相応の良さがあります。信頼性,保守運用性,トランザクション処理,特にバッチ処理の性能は特筆すべきものがあります。これを完全に捨て去るというのは,ユーザー企業にとって良い話ではありません。

一方でオープン系システムにも良さがあるわけです。選択性や多様性,先進技術を利用できること,コスト・パフォーマンスなどは,メインフレームでは得にくいメリットです。

それぞれいいところもあれば悪いところもあります。互いの良いところを組み合わせ,欠点を補う新しいシステム基盤を,ユーザー企業は求めています。

いまITベンダーは,メインフレームとオープンの良さを組み合わせた,ユーザー企業への回答を用意しつつあります。こうした新しい基幹系システム向けソフト,ハード,サービスについて,私は「新基幹系システム」と呼んでいます。

各ベンダーの製品を分析し,併せてユーザー企業の要求を分析した結果,私はあるべき新基幹系システムの姿は,図のようなものであると考えています。ITベンダーはこのを網羅するようなシステム基盤を提供するべく,さまざまな展開を進めています。

図●「新基幹系システム」の基本構成
図●「新基幹系システム」の基本構成

例えばIBMはメインフレーム上でLinux OSを使えるようにし,SOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づいたシステムを構築するためのミドルウエアを揃えてきました。いわばメインフレーム上でレガシーとオープンの環境を混在できるような環境を整えたわけです。

2007年から2008年にかけて,大手ベンダー各社から発展系と言える製品やサービスが登場してくるでしょう。必ずしも「メインフレーム対オープン」という対立軸は成り立たないのが現在の状況です。