■コミュニケーションにおいては、「人」そのものへのアプローチだけでなく 、「場」に対するアプローチも大切です。「場」の空気をいかにコントロールするか。仕切りたいけど仕切る力がない。そんな人は「場」に対して全く無力なのでしょうか。
場をコントロールするにはさまざまテクニックがあると説いてきた。しかし、素朴な疑問を抱く人も多いだろう。
「そもそも、場をコントロールするには、仕切り役にならないとダメだろう」
「仕切り役とは言わないまでも、そのテクニックを使って完全に場を仕切らないと意味ないだろう」
その疑問はよく分かる。しかし、場をコントロールするためには自分が完全に前に出て、なんらかのパフォーマンスをしないといけないかというと決してそんなことはない。
精一杯意識してアクションしたものの、他の人からすれば全くインパクトのないようなアクション。あるいは、自分が全く無意識のうちに起こしたアクション。これらのアクションが、水面に波紋が広がるように徐々に徐々に場に影響を与えていき、やがて大きな津波になることがある。
カオス理論という言葉がある。ジュラシックパークで出てきた自然科学の理論である。ものすごく端的に言うと、ほんの小さなアクションがきっかけとなり、予測不能で、しかも最初のアクションからは想像もつかない大きなアクションが起こることだ。「風が吹いたら・・・」の風が吐息ほどのかすかなものであっても「桶屋が儲かる」と考えたらいいかもしれない。
仕切るチカラのない人間は「場」に対して無力なのか
誰かが意識した仕切りをする。非常に影響力のある発言をする。これらは、いかにも場に大きな影響を与えそうだ。しかし、ほんの一つの咳払い、誰もが記憶していないような発言、これらの小さなアクションが会議や議論などの場に大きな影響を与えることがあり得るのだ。
以前のコラムで、「場の潮時」を知らせるサインがあると書いたが、それなども誰かのほんの小さな溜め息がきっかけだったりする。
私は会議のファシリテーションをやっている際に、そんな新しい流れをつくる、誰もが見逃してしまいそうな小さなアクションに気づくことが多い。そしてその小さな波紋を大きな波にすべくアクションの連鎖に協力する。そうやって議事をコントロールするのだ。
私のようなプロであればそんなことも可能だが、普通の人はそれが何を起こすか判別できないし、自分でそのような小さな風を起こすことなどできない、と考えるかもしれない。しかし、もし、あなたがそんなカオスを起こすドミノの最初の1枚になりたいと思うなら、そのアクションをとりあえず誰かに向けて発信してみるとよい。
あなたが誰かに働きかける。その人がなんらかのアクションを起こす。そしてまた次の人に影響を与える。そうして場全体に影響が拡大していくのだ。
アガサ・クリスティのミステリーで「カーテン」という作品がある。名探偵ポワロ最後の事件だ。この作品で出てくる殺人者は自分では全く手をくださない。人に命じもしない。ただただ、人を巧みに殺人へと誘導するのだ。
殺人へと誘導するために、ターゲットとなった相手に対して意図的に何らかの働きかけをするのだが、誘導のためのアクションは、その殺人となんの関連性もない。証拠も何もない。あるはずがない。だから捕まりようがないのだ(そんな犯人をどうやって追い詰めるかは、作品を直接ご覧いただきたい)。
「One can make a difference」
小説の世界と現実を同じように語ってはいけないが、意図的にカオスを引き起こすことはできる。ターゲットを明確に想定することで、どんなカオスを起こすかさえコントロールできるのだ。
以前、外資系のある会社の研修をお手伝いしていたときに、アメリカ人の取締役が言っていた言葉が印象深い。
「One can make a difference.」
「一人の力で変えることができる」とでも訳せばいいだろうか。 そう、場に対して仕切る力も、影響力も、説得力も持たないからといって、その人は全くの無力ではない。一人のかすかなアクションが人を動かし、場を大きく動かすことができるのだ。
それでは、次回は「場ヂカラ編」のまとめとして、無力な人間が、どのように人を動かし、場を動かしていけばいいのかを語りたいと思う。
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