近年、証券問題やリコール隠しなど、企業の不祥事が後を絶たない。そのなかで、「企業の社会的責任」の在り方が、注目されている。CSR (Corporate Social Responsibility)とも呼ばれるこの考え方は、多くの活動範囲を含む。現在では先に挙げたような、不祥事を起こさないための企業倫理や法令遵守(コンプライアンス)への取り組み、環境保護対策、メセナ(社会貢献の一環として行う芸術文化支援)など多くの活動範囲がある。

 一方で、これまで企業価値を判断する際の評価基準は、企業規模や売上高、株価など、ほぼ経済的側面によってのみに留まっていた。しかし、最近では CSRという考えが普及するのに伴い、企業を経済的側面だけでなく、社会的貢献度によっても評価しようという動きが活発化しつつある。

 特に、とりわけ関心が高まっているのが、企業の「環境保護対策」ではないだろうか。実際、ネットリサーチ会社・インフォプラントが2006年4月に行なった「環境問題」に関する調査によると、「地球環境を守るための取り組みに積極的かどうかは、企業を評価する基準として重要か」という問いに対し、8 割以上の回答者が「重要である」としている。

 ちなみに、ネット業界においても、環境問題に積極的に取り組んでいる企業は多い。例えば、検索エンジン関連企業は、環境保護活動に積極的な企業として知られている。

 米Microsoftでは、社内で消費するエネルギーのうち15%をカバーするため、約2,700平方メートルの敷地に2,000枚以上のソーラーパネルを設置し、グリーン電力の確保に努めている。また、米Googleでも、2006年5月31日に環境保護推進という観点で「Summer of Green」というサービスを公開した。このサービスは、公開されているウェブサービスを用いて新しいサービスを構築するマッシュアップサービスで、「Google Maps」と連動し、米国内の地球にやさしい旅行先や、環境活動を行っている団体などを地図上に配置し、検索することができる。

 日本国内でもインターネット業界での環境配慮の動きが見られるようになってきた。「人力検索はてな」をはじめとしたサービスを提供する株式会社はてなでは、風力発電によるインターネットサービスを掲げ、CO2排出量削減に向けてグリーン電力化を図ることを2006年6月15日に発表した。月間5億ページビューを稼ぐウェブサイトを運用するために、必要なサーバーは250台(2006年6月時点)。今回契約を取得したグリーン電力は年間30万キロワットに相当するという。

 さらに、環境省が運営する京都議定書、目標達成のためのアクションプラン、チーム・マイナス6%のチーム員企業であるヤフーでは、「チーム・マイナス6%」キャンペーンを掲げ、地球温暖化を防ぐための省エネ・エコライフなど、バラエティに富んだコンテンツを提供している。

 もちろん、この他にもネット業界に限らず、環境保護活動に積極的な企業は多い。しかし、こうした企業の取り組みも、一般の生活者に知られなければ、それがどんなに立派なことでも企業価値の向上には結びつかないのが現実だ。

 すでに欧米では、環境問題に対する消費者の意識レベルが高いため、企業の貢献度が消費者の購買行動に大きく影響するようになりつつある。そのため、こうした環境問題に対する企業の取り組みは、自社のセールスポイントとして積極的にアピールされている。

 しかし、日本では環境問題に対する消費者の意識レベルもまだまだ過渡期にあり、日本人特有の国民性である、"見返りを求めず、良いことは人知れずこっそり行なう"といった美徳も手伝って、仮に環境保護対策に積極的に取り組んでいたとしても、企業価値向上に活かす企業は多いとはいえないのが現状だ。

 だが、今後時代は大きく変わろうとしている。2005年2月に環境コンサルティング会社のイースクエアが米国の調査機関NMI(Natural Marketing Institute)と共同で実施した調査によれば、ロハス層と言われる「自己啓発や精神性の向上に関心が高く、社会的課題全般に対しても意識を向けている人たち」は日本でも既に30%近くにまで達しており、これからも増加傾向にあるという。

 こうした状況を鑑みると、今後は環境保護対策など企業の社会貢献をアピールすることが日本市場においても重要になると考えられるが、その際、検索エンジンはアピールの場として最も有効な場と言えるのではないだろうか。なぜなら、検索エンジンで「環境保護」や「エコ」といったキーワードで検索を行なうロハス層は、もともとかなり環境への問題意識が高いといえる。そのため、環境保護への取り組みが企業のイメージアップにつながるだけでなく、購買行動への影響を与えられるかもしれない。

 しかも、検索連動型広告に出稿する際に、「環境保護」や「エコ」といったこうしたロハス層の好みそうなキーワードの入札額が、検索数の割に安く推移しているのも魅力のひとつと言えるだろう。例えば、オーバーチュア「スポンサードサーチ」における関連するキーワードの検索数と1位入札額を抜き出しても、以下のとおりだ。

「環境 保護」 103,135回 49円

「エコ」    17,969回 90円

「ロハス」   63,488回 81円

※回数はオーバーチュアが提供する「キーワードアドバイスツール」による2006年7月の月間検索数。金額は同じくオーバーチュアの「入札価格チェックツール」による2006年9月5日時点の1位入札額。

 つまり、いまなら少ないコストで企業のCSRを存分にアピールするチャンスがある。そのため、「エコカーと言えばプリウス」というイメージが浸透しているように、「○○業界を代表するエコ企業なら◎◎」というイメージを消費者に受け入れてもらえるチャンスは業界や、大手・中小規模を問わず、多くの企業にあると言える。

 このような先駆者メリットを享受する意味でも、自社のCSRの姿勢をウェブマーケティングによって知らしめることは、決して悪いことではないだろう。そろそろ日本企業も「良いことは人知れずこっそり行なうのが美徳」という旧来的発想に縛られることなく、良いことを胸を張って堂々と行い、ウェブを通して世の中に向けて発信すべきだろう。企業のブランドマーケティングの一環として、ウェブを利用したCSRのプロモーションを、今一度考えてみてはいかがだろうか。

(アウンコンサルティング R&Dグループ 田崎奈央子)






 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。