伊藤健太郎さんの書籍「プロジェクトはなぜ失敗するのか」(2003年10月発行)がヒットしたことに気をよくした筆者は、当然のことながら、続編の執筆依頼をするために伊藤さんの許を訪ねました。たしか、2004年の春ごろだった思います。前作の執筆中に、盛り込みたいテーマについて伊藤さんとディスカッションを何度も重ねていたので、次回作は、IT分野で仕事をしている理系人間が概して苦手とする、リーダーのヒューマンスキルでいきたい、ということはすんなり決まりました。

 では、どんなタイトルを付けようか――「原稿が1行もできていないのに、タイトルを考えるなんておかしいのでは」と思われる読者もいらっしゃるでしょうが、実はそうでもありません。最初にタイトルありきで、中身は後から考える、というやり方でヒットした本は世の中にいくらでもあります。書籍編集部の編集会議で企画が議論されるとき、つねに話題になるのは「では、この内容ならどんなタイトルを付けるか」ということなのです。タイトルは本の内容をたった一言で端的に表し、書店の店頭で読者の目にまっさきに触れる部分ですから、それだけ重要だということです。

 ところでその頃、筆者が気になっていたのが、ワールドカップのアジア予選での我らがサッカー日本代表チームのふがいない戦いぶり。攻撃も守備もチグハグで、なによりも「戦う意思」が感じられない――「チームとして崩壊」しているのではないか、その原因は何にあるのか、と思わずにはいられませんでした(結局、2006年のドイツ・ワールドカップ本番までその問題は解決せず、日本代表が1次リーグで無残な敗退をしたことは、記憶に新しいと思います)。そうだ、前作と語呂を合わせてタイトルは「プロジェクトチームはなぜ崩壊するのか」にしよう、ということで著者との間で意思統一されました。

 ただ、最終的には、プロジェクトマネジャーの視点で書かれた本になったので「プロマネはなぜチームを壊すのか」に微調整され、出版されることになりました。というわけで、本書の成立過程には、サッカー日本代表の当時のチーム状況、そしてそれに対する編集者の個人的見解が少しからんでいることを、余談として付け加えさせていただきます。

 それから約3年間。難産の企画でした。そもそも「ヒューマンスキル」というテーマは、あまりにも範囲が広く漠然としており、しかも「このケースではこうすればよい」といった正解が常にあるものでもありません。本人の責任感、コミュニケーション技術、チームの信頼関係、リーダーシップなど、話題は多岐にわたりますが、何を中心にすべきかについては、著者ともども悩みました。

 そんなとき目にしたのが、伊藤さんがプロジェクトマネジメント研修の受講生(皆さん、ITの最前線で活躍していらっしゃる方々ばかりです)に対して実施しているアンケートの回答でした。このアンケートは、どんな言葉でモチベーショ ン(やる気)が上がったか、そして逆に下がったかを、自由記述形式で答えてもらうものでした。そこには、実に興味深い、生々しいコメントがたくさん含まれていました。

 チームを生かすも壊すも、言葉の使い方しだい。現場の生のコメントもたくさん掲載して、言葉がチームのパフォーマンスに与える「パワー」をぜひ感じ取っていただきたい。これを本書の中心テーマにしよう、ということになり、本書は完成しました。

 本書にぜひ目を通していただき、言葉の持つパワーと、チームのパフォーマンスに与える言葉の影響の重要性に、特にリーダーの方々は気づいていただければと思います。そのほかに、状況問題形式のヒューマンスキルの紙上トレーニング、約150人のプロジェクトマネジメント研修の受講生の方々から集めた「現場の生の声」をほぼそのままの形で掲載するなど、盛りだくさんの内容を含んでいます。ご一読いただければ幸いです。