三城氏写真 筆者紹介 三城 雄児(みしろ・ゆうじ)
ベリングポイント マネージャー

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。都市銀行、ベンチャー企業、国内系コンサルティングファームを経て現職。特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアム調査委員会委員長。民間企業や行政組織の人事改革に取り組むかたわら、組織・人事に関わる各種の講演・執筆など積極的な活動を行っている。

 本連載の第1回では、現場職員の意識改革を阻む思考回路として、(1)法令・前例第一主義、(2)予算消化主義、(3)“避・当事者主義”の3つを提示した。また、筆者がコンサルティングで関わる独立行政法人では、これらの思考回路を打破すべく様々な施策を展開していることを紹介した。

 それでは、なぜ独立行政法人は他の自治体に先駆けて上述の意識改革に取り組むようになったのだろうか。それは、外部の有識者で構成される評価委員会による業績評価を受ける仕組みが大きく影響している。独立行政法人では、各府省で行う独立行政法人評価委員会に加え、総務省が設置する政策評価・独立行政法人評価委員会が存在し、業務の継続の必要性が常に問われるため(独立行政法人通則法第12条)、組織運営のあり方が常に議論されるのだ。(図1)

■図1 独立行政法人の評価と見直しの仕組み
独立行政法人の評価と見直しの仕組み
出典:総務省「独立行政法人評価に関する基本的資料」
「独立行政法人の評価及び見直しの仕組み」

 さらに、独立行政法人通則法(以下「通則法」)第63条の条文で、職員の給与は「職員の勤務成績が考慮される」と記述されていることも、独立行政法人が現場職員の意識改革に取り組むきっかけとなった。この条文があるために、勤務成績をいかに測定するかという議論が促され、一人ひとりの現場職員の成果、行動、能力、及びその背景にある意識に目を向けざるを得なくなったのである。(表1)

■表1 独立行政法人通則法第63条
(職員の給与等)
特定独立行政法人以外の独立行政法人の職員の給与は、その職員の勤務成績が考慮されるものでなければならない。

 このように独立行政法人には、組織のトップから末端まですべての職員が、仕事の成果を定期的にチェックされるような仕組みがある。この評価の仕組みはすべての独立行政法人で整備されており、さらに先進的な法人は組織や個人の業績評価の結果を、各職員の処遇に反映させる新たな人事制度を相次いで導入している。こうした人事制度の話は連載の第3回に譲るとして、今回はこれら制度を運用する主体として、組織の上位層や管理職層の役割変化について述べたい。

「管理するだけならあなた方は不要です」

 現場職員の意識改革プロジェクトでは、第1段階として理事や上級管理職など組織の上層部向けに研修を行なうことが多い。第1回で述べたように、現場職員の意識や行動を変えるためには、上層部の発言や行動が組織の目指す方向と合致している必要があるからだ。

 この上層部向けの研修で、講師は次のような激をとばす。「そのような考え方ではマンションの管理人さんと一緒ですよ」「みなさんに期待しているのは経営です」「管理するだけならあなた方は不要です」。

 独立行政法人の会計制度は「原則として企業会計原則によるものとする」(通則法第37条)とされ、これまでの国の会計制度とは異なり、“カネ”の面でも民間と同じ思想を持つことが求められている。「公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としない」(注1)と言われてはいるものの、限りある資産を有効活用して最もコストパフォーマンスの高い施策を展開するという根本思想に変わりはない。

(注1)中央省庁等改革の推進に関する方針」の「III独立行政法人制度関連、17.財務諸表等」より。

 このときに求められるのは、「経営(者)」である。

  • 中期計画の策定や日常の発言の中で、組織の目指すべき方向性(ビジョン)を明示する
  • 職員全体のモチベーションを最大化することを常に考える
  • 新たな企画の中から最も効果の高いと判断できる事業に傾斜投資する
  • 実行された施策の効果に責任を持つ

 といったようなことが求められている。単に、法令や議会で決まった業務が時間通りに行なわれているかどうかを確認しているだけなら、むしろ玄関の掃除や苦情の処理を率先して行う管理人さんの方が、役に立っているかもしれない。

“与えられた”仕事に没入する行政組織の管理職

 上位層が経営をおこなうようになれば、管理職の役割も大きく変化する。管理職には、これまでのような実行プロセスの進捗管理中心のマネジメントではなく、取り組み内容やそこで得られた成果に着目したリーダーとしてのマネジメントが求められるようになる。

 中期計画の策定や日常の発言の中で上位層が掲げたビジョンを、現場職員の意識に迅速に植え付け、一人ひとりのモチベーションの種に火をつけて、一人ひとりの業務成果(パフォーマンス)を最大化するのが管理職の役割である。このような行動を「管理職のリーダーシップ行動」と筆者は呼んでいる。

 一般的に行政組織の管理職は多忙である。しかし、管理職が多忙である理由を聴取してみると、「定例会議への参加が多い」「作らなければならない報告書類が多い」「議会対応資料の作成に追われている」など、作業管理ベースの仕事に大半の時間を費やしていることが多い。つまり、定型的なルーチンワークや組織から“与えられた”仕事に没入しているのだ。

 これではリーダーシップ行動のとれる管理職とは言えない。管理職は、上位層が掲げたビジョンを現場職員に自らの言葉で説明したり、ビジョンに基づき現場職員の教育訓練を新たに企画したり、全職員が使命感や正義感を持って仕事ができるように陣頭指揮をとるといったリーダーシップ行動に時間を費やす必要がある。しかし、行政組織の管理職はこれらの行動をするための時間を、ほとんど確保できていないのが実態である。

 この状態のまま管理職に新たな取り組みを求める改革を実行するとどうなるだろうか。筆者の経験から言うと、多くの場合、以下のようなことが起こる。

  • 制度を活用すべき現場の管理職は、不慣れな仕事が増えて疲弊する
  • 導入された制度はうまく活用されず形骸化する
  • 現場職員のモチベーションはかえって悪化する。

 この例からわかるように、業績評価に基づく新たな人事評価制度の導入のような「仕組み」の導入と、それらに必要な現場職員の「意識改革」の取り組みは、同時並行でおこなわれなければならない。