私は5人の執行役員で構成する「経営委員会」の一員だ。CEO(最高経営責任者)へ直接報告する立場にある。さらに、9人のメンバーから成る「戦略経営委員会」にも所属している。

 社外では、米ウォルマート・ストアーズや米ゼネラル・エレクトリック、米ゼネラル・モーターズ、独ダイムラークライスラーといった世界のトップ企業でCIO(情報戦略統括役員)を務める人たちと、お互いに似たような立場であることから親密な関係を築いている。

ロバート・カーター氏
ロバート・カーター氏
(写真撮影:的野 弘路)

 フェデックスは、年間14億ドルをIT(情報技術)に投資するが、最初にビジネスありきであって、ITはあくまでお客様の満足を高めるために使う。もちろん、売り上げを増やす、競争上の優位性を維持する、生産性を上げる、コストを削減するといった目的を達成させる役割もある。

 これまでに実施してきたIT投資の一部について話そう。

 まず売り上げを拡大するために、携帯音楽プレーヤーの「iPod」を製造する米アップルコンピュータの工場と情報システムを接続し、お客様から注文を受けた商品を素早く出荷できる体制を築いた。SCM(サプライチェーン・マネジメント)の仕組みとしては非常に進んでいる。

 コスト削減の取り組みとしては、自社で保有する約680機の航空機や7万台を超す配送車両の運行を最適化し、消費燃料や配送時間を抑えるIT活用が代表的だ。

 米UPSや独DHLといった総合航空貨物輸送業界の競合との差異化にも取り組んでいる。例えば「フェデックス・トレード・ネットワーク」と呼ぶサービスは、顧客企業の通関業務をスムーズにするものだ。「グローバル・トレード・マネージャー」と呼ぶツールは、配送コストや関税がいくらかかるのかを出荷前に推計するもので、この種のツールとしては唯一のものといえる。

IT投資案件をビジネス部門と精査

 IT投資の意思決定を含めたITガバナンスは、結局、ポートフォリオの管理に尽きる。

 フェデックスではIT投資を決める場合、IT部門と、航空機の運行やマーケティング、営業といったビジネス部門とが密に連携することで、内容を十分に理解しながら何が一番重要な投資かを見極めている。意思決定のプロセスはきちんと確立されており、うまくいっている。

 米マーキュリーのポートフォリオ管理ツールを導入して、どの投資案件にいくらかかっていて、どのぐらいの見返りがあるのかをはっきりと見えるようにしたのも、当社の大きな特徴だろう。プロジェクトに必要なリソースやコストなどを分析して、優先順位を決めている。

 決められたプロセスに従って一つひとつ確認しながら、合理的にIT投資を決める場合もあれば、経営トップが戦略上、必要だと直感的に判断して決めるものももちろんある。

 IT投資のROI(費用対効果)を高めるうえでは、刻々と変わるビジネス環境にITが柔軟に対応できるかどうかがカギを握る。

 全世界に6500人いるIT部員のうち1000人は、「カスタマーインテグレーション」という専門チームに所属している。外部の顧客企業と交流しながら、フェデックスのIT資産をうまく統合して活用してもらえるようにする役割を担う部隊だ。社内の利用部門とも活発に交流してROIを最大化するように努めている。

 ROIという観点ではさらに、3年前から「6×6(シックス・バイ・シックス)」と呼ぶ改革を推進し、完了に近づいてきた。2006年までに6つの重要事項に取り組むという意味でこう名付けた。

 6つの重要事項とは、「コスト効果」「スピード」「イノベーション」「サービスレベル」「ビジネスアライメント(ビジネスとITの整合性)」「人」。実行した作業は膨大だったが、コスト効果の面ではここ2~3年にわたって、収益に対するIT投資コストを1.5%下げることができた。

 「人」を重要事項に挙げているのは、すべては人に尽きるからだ。IT部門が良い職場になるように、人重視の考え方を取り入れてきた。IT部門の担当者が能力を高めることができ、その結果として良いツールを利用部門に提供できるようになれば社員全員が報われる。私はそうした環境をつくらなくてはならない。

ロバート・カーター氏
1959年台湾生まれ。81年にフロリダ大学コンピュータ・情報科学部を卒業。91年に南フロリダ大学でMBAを取得。12年間、通信業界で技術・管理職を務めた後、93年にフェデックスに入社。2000年から現職。フェデックスの主要なアプリケーションや技術の基盤構築を統括する。