ベンチャー企業におけるシステム構築のやり方は大企業のそれと異なることが多い。システム構築の方法には絶対的に正しいというものはない。要は選択の問題だ。しかし、日本最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング サービス)であるミクシィの取締役に2006年1月就任した若干26歳のバタラ・ケスマさんの話を聞くにつれ、システム構築に地殻変動が起こっている気がしてならない。

 ケスマさんがプログラミングを始めたのは中学1年。インドネシアから日本に留学していた19歳の時にミクシィの前身であるイー・マーキュリーでインターンを始めた。求人情報サイトなどの運営企業として成長する同社の成長を支えた。在学中にSNSをやりたいとミクシィの社長に提案。当初1人で開発を担当したこのシステムは、今や300万人の会員を擁する日本で第3位のトラフィックを持つサイトとなった。ケスマさんは、15人の部下とともに同社のIT戦略を支える。

 ミクシィのシステムはほとんどオープンソースで構築している。コストが一番の理由だ。会社からのサポートはないが、メーリングリストやウェブの情報は充実している。ソフトウエアのソースコードにアクセスできるので、利用するだけでなく、実際どう動いているかという理解度も高い。

 オープンソースを使うことで、ほかのCIO(最高情報責任者)と違う悩みがあるかどうか聞いてみた。「商用のソフトウエアを利用すれば、パフォーマンスが悪い時はベンダーに直してくれと言うしかない。オープンソースであれば自分たちで直すことができる。メーリングリストに改善の報告をするとフィードバックが来る。その集積がソフトウエアを堅固にする」という。

 ケスマさんは2006年4月、シリコンバレーのMy SQLのカンファレンスにスピーカーとして招聘しょうへいされ「オープンソースによる大規模なウェブアプリケーションの構築」を発表する予定だ。

 オープンソースへの取り組みは、得てして大企業ほど二の足を踏むものだ。理由は多々ある。一番は「リスクを取れないから」というもの。オープンソースのコミュニティーに貢献することに意味があるのかという意見すらある。それでも、オープンソースを使うことによるスピード感について行けると自信を持って言える人はいないだろう。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA