オルタナティブバンク、あるいはソーシャルバンクというものがある。普通の銀行から資金が借りられないNPOなどに融資する。預金者は社会貢献や社会改革の趣旨に賛同し、特定目的の融資と指定して預金する。預金を通じた社会貢献の一種でもある。欧州で成長しているが米国にもあり、日本でも最近、出てきている(北海道グリーンファンド市民バンクなど)。今回は金融分野での社会企業について考える。

■欧州のオルタナティブバンクの仕組み

 私たちは、銀行に預けたお金が誰に貸し出され、どう使われるか気にしない。借りる時も原資が誰から集められたか気にしない。金利などの条件で融資も預金も決める。これに対しオルタナティブバンク(ボランタリーファイナンス、ソーシャルバンクとも呼ばれる)では例えば自分が貸したいと思う分野や借り手に対してならば安い金利でもよいとする。借りるほうもその意思を尊重し、きちんと返そうとする。つまり貸す側、借りる側の意思をマッチングしながらお金をまわしていく。欧州では1970年代からこうした銀行が複数登場している。

(1)倫理銀行(イタリア)

 イタリアの倫理銀行(Banca Etica)は70年代に協同組合で始まり、今は正規の銀行となった。融資先はNPOや協同組合など非営利組織のみである。融資分野は、(1)社会的協同(社会的弱者に対する衛生・教育サービスの提供)、(2)国際的協同(移民支援、フェアトレード、マイクロファイナンスなど)、(3)環境(代替エネルギーの開発・使用、環境にやさしい交通手段など)、(4)文化・市民社会(伝統文化の保存、貧困地域での雇用創出など)の4つである。

 預金者は自分の預金をどの分野に融資するか選択できる。また預金金利を上限からゼロの間で選択できる。上限より低い金利の場合、差額は融資対象のプロジェクトに用いられる。倫理銀行の預金総額は06年末で4.2億ユーロ。貸付け総額も3.2億ユーロに上る。不良債権比率は1.59%(02年末)と低い。

 倫理銀行は、「より責任ある透明性の高い金融資産マネジメントを求める預金者と持続可能な社会および人間開発という価値観に基づいた活動を橋渡しする」ことを方針とする。また「経済活動で生み出される非経済的側面の結果を気遣う」「金融へのアクセスは人権である」などと主張する。

(2)トリオドス銀行(オランダ)

 トリオドス銀行(TriodosBank)は、1980年にオランダで組織化され現在はベルギー、イギリス、スペインにも進出する。預金口座は2005年末で約9万口座、貸出先は約4000件に上っている。貸出先は主に環境や社会に利益をもたらす小規模の団体・企業で分野は(1)自然・環境、(2)文化・社会(教育、保育、ヘルスケア、アート)、(3)社会ビジネス(フェアトレード、住居)と規定する。

 イギリスでは「フェアトレード・セーバー」「オーガニック・セーバー」といった分野を限定できる預金口座も用意する。この場合、金利の一部は指定分野の関連団体に寄付され、寄付割合は預金者の希望で決める。

 「トリオドス」とはギリシャ語の「Three ways」(3つのアプローチ)からくる。使命は「よりよい環境に貢献、または社会的・文化的に価値を創造する企業や組織に対するファイナンスを提供する。同時に預金者や投資家に対してこのような団体の支援をする道を開く」とする。

■既存の金融の限界を超える--預金者の意思をバックに

 金融はすべてのビジネスの基盤機能である。また公益性の強いビジネスだ。しかし金融ビジネスは全て数値化され、瞬時にして世界中の競合と比較される。金融ビジネスは弱肉強食の資本主義の論理に忠実である。同時に金融ビジネスは規制に縛られ書類主義、前例主義などの官僚主義に陥りやすい。結果としてこれまでの金融サービスは、生活困窮者や実績のないNPOなどに冷たかった。ところがオルタナティブバンクは預金者の意思をバックにこうした状況に挑む。従来の金融業の限界への挑戦としても注目に値する。

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上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。運輸省、マッキンゼー(共同経 営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォーラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』ほか編著書多数。