2003年5月以降、P&GはいわゆるIT(情報技術)部門の組織形態を変え、名称を変え、ゴール設定も変更した。この変革は、IT部門をバックオフィスからビジネスの前線へと引っ張り出すのが狙いだった。変革の経緯と、私たちが今何をしようとしているのかをお話ししよう。

ITを共通部門と合体、現場に近づけた

フィリポ・パッセリーニ氏
フィリポ・パッセリーニ氏

 3年前、P&Gは米ヒューレット・パッカード、米IBM、米ジョンズ・ラング・ラサールにITインフラの維持・管理、デスクトップのサポート、応用ソフト開発などの業務を委託した。同時にITスタッフ約3430人をこれらベンダー3社に転籍させた。その結果、当社のIT部門はブランド開発、戦略作り、応用ソフトのデザインといった、ビジネス寄りの前線業務に専念できるようになった。

 続いてIT部門を「グローバル・ビジネス・サービス部門(GBS)」と合体させた。GBSは財務、調達、人事、施設・オフィス管理といった各事業部が必要とする共通の間接業務を一手に引き受け、提供する。私がCGSO(チーフ・グローバル・サービス・オフィサー)も兼任するのはそのためだ。この統合でIT部門が社内各部門にアクセスし、要望を詳細に把握できる範囲が広がった。

 こうした組織改革は、説明こそ簡単だが、実行はとても難しい。人が絡むからだ。P&Gは製品ブランド力だけでなく、企業ブランド力も高い。従って長期雇用者が多い。みんな当社で働きたくて入社する。今回、約3430人が社外に異動したわけだが、このアクションは当社だけでなく、ITベンダーにとっても勇気のいる決断だったに違いない。

 私たちはこの業務委託を「アウトソース」ではなく、「パートナーシップ」と呼ぶ。当社とベンダーの双方が利益を得る関係にならなければ成功しなかったからだ。異動した人材が削減すべきコストだったら、ベンダーに職を得ることはできなかった。3社の側もP&G流のプロセスやシステムを吸収すれば他社からの業務受託に活用できると考えて、彼らの能力を資産として手に入れたのだ。

ITスタッフの意識を「一級市民」に変革

 組織変更に伴って、新組織の名称を「IDS」に変更した。経営トップ層からこう見られたいという願望をアピールするためだ。IDSの「I」はインフォメーションであり、私たちの部署が持つユニークな資産。「D」はディシジョンで、私たちが影響を与えたい対象。「S」はソリューションで、この部署が提供する成果物を指している。要するに、「我々は情報技術を武器として持ち、システムや技術ではなくソリューションを提供し、意思決定のお役に立ちますよ」という宣言だ。

 では新しい組織形態と名称を持って、私たちは何をやろうとしているのか。目標は何なのか。

 目標を定めるため、今後少なくとも5年は続くであろうトレンドを探り、3つ選び出した。第1は、消費者が企業に対し、よりパーソナルな交流を求めるだろう。第2は、イノベーションを形にして市場に届けるまでの期間がますます短くなるだろう。第3が、変化を予想して能動的に動くことがますます重要になるだろうといったトレンドだ。

 この中期トレンドを背景に、IDSとして3つの目標を設定した。まず、消費者、パートナー、サプライヤー、社員とより良い結びつき、理想的には1対1の結びつきを促す仕組みを構築すること。続いて、社内全領域にわたって、社員がより良い意思決定ができる仕組みを作ること。「より良い決断」とは、より速く、より賢い、できればリアルタイムな決断という意味だ。最後に、モデルや仮想現実の技術を駆使して、イノベーションの早期市場投入を手助けすることである。

 P&Gのように世界クラスの有名ブランドを300も抱える企業では、マーケッターや製品開発スタッフが「一級市民」、そのほかは「二級市民」と自他ともに見なしてしまう傾向があった。しかし一連の変革を通じて、IDSのスタッフには顧客志向の視点と結果重視の意識が強まった。ITスキルだけでなく、ビジネスへの情熱・知識・スキルを併せ持つ人材が活躍する部署にしていきたい。

フィリポ・パッセリーニ氏
ローマ生まれ。現地で統計とオペレーションズ・リサーチの博士号を取得後、1981年P&G入社。97年から2001年までIT担当のバイスプレジデント。英、ギリシャ、イタリア、北米などの市場責任者も経験し、2003年CGSO(チーフ・グローバル・サービス・オフィサー)に就任。2004年からCIOを兼務。