地上デジタルテレビ放送の本放送よりも約2カ月早い2003年10月から,東京と大阪でデジタルラジオの実用化試験放送を実施している社団法人「デジタルラジオ推進協会」(DRP=The association for promotion of digital radio broadcasting)。2006年12月にデジタルラジオ受信機能付き携帯電話が発売され,さらに実用化試験放送の枠組み内ではあるが,TOKYO FMが本格的放送を開始した。デジタルラジオの実用化試験放送の主免許人であるDRPで放送・普及広報部部長を務める松村 安紀氏に,DRPの主な活動内容,デジタルラジオ普及に向けての取り組みについて聞いた。

(聞き手は隅倉 正隆=IT・放送技術コンサルタント



DRPの主な活動内容と取り組みについて教えてください。

図1●デジタルラジオの普及推進を図るDRPのロゴ
図1●デジタルラジオの普及推進を図るDRPのロゴ
 DRPには,AM/FMラジオ放送事業者や端末メーカーが参加しています。DRPのWebサイトにある「定款」にも記載されているように,(1)地上デジタル音声放送の実用化試験放送の実施,(2)新たな放送サービスの開発及び放送の需要動向等に関する調査研究等を行う---がDRPの目的です。

 デジタルラジオは,2006年に本放送を予定していた「マルチプレックス方式」が先送りになったことから,実用化試験放送の免許で放送を継続することになりました。2011年のアナログテレビ放送終了後,空きチャンネルの一部を利用してデジタルラジオの放送を開始する可能性がありますし,さらに2011年よりも前に本放送が始まる可能性もあるためです。DRPでは実用化試験放送に沿って,デジタルラジオの普及広報・周知活動を行っています。

 また,デジタルラジオ放送局間の意見や放送技術規格などもDRPが中心になって取りまとめています。特にデジタルラジオの放送技術規格や運用規定については,JEITA(電子情報技術産業協会)と連携しつつ,会員で規格原案を作り,ARIB(電波産業会)で承認してもらう作業を行っています。

 デジタルラジオの技術規格である「ISDB-Tsb」(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:ISDB-Tsb)は,日本の地上デジタルテレビジョン放送規格である「ISDB-T」(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:ISDB-T)を参考にしていて,ほぼ同じ規格になっています。そこでDRPでは,ワンセグと互換性を持たせたデジタルラジオ用プロファイルである「P2プロファイル」を規定した運用規定を作成しました。

現在のデジタルラジオの放送エリアは。

 2003年10月10日から東京と大阪で,地上アナログテレビ放送の空きチャンネルである第7チャンネルを利用し,DRPが免許人となって実用化試験放送を開始しました。 広報用のWebサイトにも掲載している通り,現在東京では東京タワーから800Wの出力で放送しています。放送エリアは東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の各一部で,約490万世帯を想定しています。また,大阪では生駒山送信所から240Wの出力で放送を行っています。放送エリアは大阪府,京都府,奈良県,兵庫県の各一部の約420万世帯です(表1)。

表1●デジタルラジオ実用化試験放送局の免許概要
項目 内容
免許取得日 平成15年10月1日
実用化試験放送開始日 平成15年10月10日
免許申請者/免許人 社団法人デジタルラジオ推進協会
局名 東京:東京実用化試験局,JOAZ-FM
大阪:大阪実用化試験局,JOBZ-FM
空中線電力 東京:800W *1,東京タワー
大阪:240W, 生駒山送信所
周波数 東京:190.214286MHz(VHF 7ch)
大阪:190.214286MHz(VHF 7ch)
放送エリア 関東では,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の各一部と想定
近畿では,大阪府,京都府,奈良県,兵庫県の各一部と想定
*1:2007年2月19日に総務省関東総合通信局から正式に2.4kWの実用化試験局として
無線局免許状を交付
出典)社団法人デジタルラジオ推進協会広報HP「http://www.d-radio.jp」(2007年2月末時点)

 関東地区(東京)の送信出力を現行の800Wから3倍の2.4kwへ増強する計画もあります。2006末から2007年2月上旬に試験電波を出し,隣接するテレビ放送への影響や家庭のテレビへの影響などを確認しました。2月19日には総務省関東総合通信局から,正式に2.4kWの実用化試験局として無線局免許状の交付を受けました。送信出力の増強は今のところ東京だけを考えており,近畿地区は今後も増強の予定はありません。

デジタルラジオの認知度向上への施策と,ユーザーの反応は。

 これまでのPR活動は,各種の展示会で受信機を展示してデジタルラジオを体験してもらうことが中心でした。今後の予定で大きなものは,2007年3月末に予定している記者発表会です。その場では,放送エリア,チャンネル名称などのアピールをするとともに,東京での出力増強の説明を行います。また,4月からの各チャンネルの番組を紹介するとともに,市販されているデジタルラジオ受信機能付き携帯電話も展示する計画です。その後は「u-Japanフェスタinひろしま」「CEATEC JAPAN 2007」「民間放送全国大会」「A&Vフェスタ」に出展予定です。

 2006年12月にデジタルラジオ受信機能が搭載された携帯電話が発売されたことで,一般からの問い合わせが多くなってきています。特に,携帯電話の購入者やこれから購入予定の方々から,デジタルラジオの放送エリアについての問い合わせが多いようです。市販端末が出てきたことで,デジタルラジオの認識度が高まっている印象です。