Webプランナー志願者には,いろいろな個性を持つ人がいる。今回は,プランナーを目指す人たちの時間認識タイプごとに,筆者なりのアドバイスを書いてみよう。

まずはプランナー自身のタイプを知ることから

 今ここに,あなたの一生をつづった「自分史」という1冊の本がある。あなたは,その本を手にとる。表紙,目次があり,索引がある。目次には,人生のトピックとなる出来事―――就職,結婚,子育て,趣味,自己実現,疾病,定年,最期,それらの小見出し―――がリストアップされている。各章のトビラには数行の要約が書かれている。索引では,あなたの趣味や就職する企業名,結婚相手の名前など,重要な語句が網羅されている。

 あなたなら,この本をどのような順序で読むだろうか。イメージしてみてほしい。 そして,次の三つで最も近いものを選んでみてほしい。

(A) 目次に目を通し,一生の出来事をザッと把握する。まず,自分と自分を取り囲む人たちにとって重要な章に目を通す。その後,1ページ目から斜め読みしていく。自分と家族・友人・仕事仲間の「関係」や社会の動きを気にかけながら読む。

(B) 手にとるやパラパラとランダムにページをめくり,気になるページを見つけて読む。自分の関心事の載っていそうな章にアタリを付けて開くか,あるいは真っ先に最終章を見る。自分と最も身近な人の人生の「成否」を気にかけながら読む。

(C) 表紙のコピーをきっちりと眺め,目次に目を通し,各章の要約を読み,索引をすべて目で追って一生のアウトラインを確実に把握する。その後,1章から細かく読み始める。自分の人生を含む自然界の「環境」の変化を気にかけながら読む。

 この質問に対する答えひとつで,プランナー自身の時間認識の長短のタイプ―――「一度に意識する時間」および「一度に集中する時間」―――という個性をうかがい知ることができる。

 (A)は標準タイプ(中期的視野の共感型)で,自分と周りの人々の調和や立場,物事の優先順位を重視する人だ。(B)は短期タイプ(短期的視野の直感型)で,全体の把握よりも自分の関心事やインパクトや最終結果に着目する。そして,(C)は長期タイプ(長期的視野の予測型)で,全体を把握してから細部に注目する。

 個性は強ければ強いほど,メリットもデメリットも大きくなる。強すぎる個性は独創性の発揮には不可欠だが,逆に出る杭になったり,周りとのあつれきを生むこともある。今回は,このプランナー自身の時間認識タイプ別にメリットを最大限に見せ,逆にデメリットをメリットに変えたり補う方法について取り上げてみる(表1)。

表1●時間認識タイプ別,成功ポイント早見表
表1●時間認識タイプ別,成功ポイント早見表  [画像のクリックで拡大表示]

 なお,時間認識の問題については,本連載の第13回で,プランナーと顧客のタイプ別企画の通し方,第14回で,問題解決を早めるためのチーム編成の例をとりあげたので,こちらも参照してほしい。

時間認識の標準タイプは,こうすればうまくいく

成功のポイント

 本稿でいう時間認識の長短は,生物や人類としての普遍的な性質ではなく,現在の日本社会の中での相対的なものだ。つまり標準タイプはマジョリティであり,相手の意見や希望に共感できる範囲が広い。プランナー自身を基準として大多数の顧客やエンドユーザーの感覚をとらえても外すことは少ない。常識的で過不足ない企画はお手のものだから,最初から新規性のあるものを目指すのではなく,前例のあるテーマで実績を積み上げて顧客の信頼を勝ち取っていくのが定石だ。

 機能や作業の優先順位の付け方も妥当で,調整役の資質がある。Webプランニングの仕事に慣れたら,制作メンバーを募り,プロジェクト・リーダーを兼務するのもよい。

 他の二つのタイプよりもマルチタスクが容易なので,同時期の複数案件の企画や並行作業への耐性も高い。そのため,同時進行中の別の案件同士―――例えば,顧客同士は全く関係のない,食品メーカーとアパレル・メーカーの案件など―――を関連付けたWebサービスの企画を立案して実施するといった,1案件の中にとどまらない,複数案件の関連付けによる相乗効果狙いの企画を考えてみるとよい。異業種の顧客同士を接続することが,独創的な企画につながることもあるだろう。顧客から学ぶ姿勢を持ち続けよう。

注意点

 標準的であるということは,逆にいえば常識の枠にとらわれがちになるということだ。,型破りのアイデアを思いついたときに自ら否定しないよう,一呼吸置いて評価するクセをつけよう。自らがマジョリティなので,顧客やチームのメンバーが突拍子もない提案をした場合,常識的な自分の意見をごり押ししないように,実現すべきは顧客の希望であって,Webプランナー個人の希望ではないことを肝に銘じておこう。また,自分の目や足で稼いだ情報を大切にして,一般論の信ぴょう性を吟味するように心がけよう。

 特に重要な注意点が二つ。一つは,顧客や他の制作者が誤った方向に進み始めたときには,和や共感を重視するよりもちゅうちょせず阻止を選ぶこと。中期的視野にこだわり過ぎて,長期的な結果に悪影響が出ないようにすることだ。

時間認識の短期タイプは,こうすればうまくいく

成功のポイント

 型破りの行動力と機動力でチャンスを作るのは,このタイプだ。予想すらできないような顧客とつながりを持ったり,率直で迅速な対応によって相手の心をつかむことがある。心のフットワークが軽く,「面白そうだから,とにかくやってみよう!」というパッションがある。未経験の技術が必要な企画でも,入念に検討する前に実施を宣言してしまう。乗り気になった顧客から引き受けた以上は対応せざるをえず,技術力の底上げにつながる。このタイプがいるチームでは,不可能と思われていた企画が実現することがある。

 顧客側提案によるチャレンジングな案件も気軽に引き受けがちになるので,プロジェクト・リーダーにも向いているが,トップダウンで人を使うより,メンバーにお願いする形でサポートしてもらう形のほうがうまくいく。意識の切り替えが速いので,自らは次々と企画のキッカケを作ることに専念し,企画書に定着させる作業は他のメンバーに任せる形を作ることができれば,受注量は何倍にも増えるだろう。

 このタイプは,キッカケとなる対象に瞬時に反応して膨らませていくことができるので,用途開発型の企画に向いている。様々な人や情報やモノと触れ合う機会を多く持つことが,発想の幅を広げてくれる。

注意点

 バックアップ体制の薄い小規模事業者には,何にでも首を突っ込むのではなく,挑戦と無謀を見分けて動く姿勢も必要だ。未経験の技術には挑戦すべきだが,設備や体制については,慎重に身の丈にあった規模の仕事を選び,無謀を避けなければならない。また,練り上げれば良い企画になるアイデアに早く見切りを付け過ぎて,頓挫させてしまってはもったいない。風向きが悪く腰を据えて待つべきときに先走って動いたり,実施を急ぐあまり工期を短く見積もり過ぎたり,顧客が煮え切らないときに決断を急かして関係を悪化させないように気をつけよう。

 技術に疎い顧客の話に腰を据えて付き合うこと,数値による説得材料の準備,過去に何件も実績のある類似企画の焼き直し,企画書の文案のリライトといった新規性のない作業も,プランナーには必要だ。これら地道な作業の重要性を理解しよう。そして,先送りして引き延ばしがちになるのであれば,標準タイプの調整・管理能力の高いメンバーと組んでサポートしてもらうとよいだろう。

 特に重要な注意点は,ただ一つ。Webプランナーを目指したときの初心を忘れないことだ。結果重視は仕事なら当然だが,売上への関心がWebプラニングという仕事への関心よりも勝ることのないよう,自分を律して売上を設備投資に回し,自己研鑽の時間を割くことも必要だ。顧客のWebの運用と更新は,事業所の安定運営と技術力維持の上に成り立つことを肝に銘じておこう。

時間認識の長期タイプは,こうすればうまくいく

成功のポイント

 長時間一つのことに集中してじっくり取り組めるので,長期計画の仕事にはうってつけだ。決断にいたるまで時間がかかる代わりに,一度決めたことは変更しない姿勢を持つため,筋の通った企画を立案できる。何より,遠い先まで把握できるため,他の2タイプが気づかない彼方のアイデアを見つけることができる。

 また,小規模事業者では,月単位で見れば出費のほうが多い月も出てくる。長期単位で収支を考え,一気の入金に舞い上がったり落ち込む度合いが他の2タイプよりは低いので,運営も安定しやすい。

 本来,一人で一つの案件をコツコツこなすほうが向いているので,人を使う立場に立つことは,能力的に可能であっても荷が重いはずだ。コラボレーションをする場合は,度量のあるリーダーと標準タイプのメンバーが多いプロジェクトに参加して,独創的なアイデアを評価する顧客の案件に携わり,実施をサポートしてもらえる環境なら能力を発揮できる。そういった環境を自ら作っていくような能動性が必要になるので,チャンス・メーキングの得意な短期タイプと組むのも,一方法だ。

 独自企画の提案・制作に向いているが,独りよがりにならないように,社会動向を把握し,ニーズを見誤らないようにする姿勢が道をひらく。

注意点

 このタイプは,長期的視野ゆえに常に多くの情報量を処理しなければ反応を返せないため,リアルタイムの人付き合いや雑談は苦手であることが多い。一つの作業に長時間集中して意識の切り換えに手間取るので,マルチタスクも難しい。だがWebプランナーには,コミュニケーション能力と状況判断能力は不可欠だ。特にSOHOの場合は,メール打ち合わせが基本であるぶん,対面の席では,短時間の間に内容の濃い打合せを行わなければならない。顧客に積極的に歩み寄り,コミュニケーションの試行錯誤を成長の糧に変える姿勢が必要だ。

 また,このタイプの人は言葉を字義通り受け取りがちであるため,自分の位置を正しく評価しにくい傾向がある。なにしろ,Webと名の付く職業ほど,アヤシイものはない。おしきせのJavaScriptをコピペしただけで「Webプログラマ」を名乗ったり,知り合いのホームページを作って謝礼をもらっただけで「Webデザイナー」を名乗ることだって出来てしまう。名刺に肩書きを印刷すれば,誰でも今日から「Webプランナー」。

 無資格で名乗れる職業は,他者との間で相対的なものではなく,個人の中で相対的なものだということを忘れないようにしよう。例えばWebデザイナーを2年,Webプランナーを3年経験した人が「Webプランナー」を名乗る。Webデザイナーを5年,Webプランナーを4年経験した人が「Webデザイナー」を名乗る。この場合,後者の「Webデザイナー」のほうがプランニングを出来るかもしれない。肩書きから実力は判断できない。度を越した謙虚さは,「自分の事業を宣伝するための企画」の失敗につながり,受注獲得の機会を失うことになりかねない。

 特に重要な注意点は二つ。一つは,時代に先駆けたアイデアをいくら出しても,提案時期が早過ぎると滑るので,タイミングを見計らうこと。また,プランナー自身は全体を深く把握していても,顧客も含め他のタイプの人には一部分の表面しか把握できていないことが多いので,対面や電話の打合せ時に言葉足らずにならないように気をつけることだ。話し言葉で,どこまで説得力を発揮できるかが企画の成否を左右する。

アプリケーション以上に,人間にもとめられる「クオリティ」

 以上のどのタイプであれ,仕事である以上,独創的な発想をする人なら,他者を困惑させるような独創的な(?)言動まで許されるというわけではない。Webサイトは,プランナーの独り舞台では成立しない。顧客やエンドユーザーの感情を汲み取り,チーム制作の場合は,メンバー間の信頼関係も必要になる。社会人としての常識ある言動は,必ずしも,個性の抑制にはつながらない。折衝の際に求められる人格がある。怒りを抑えなければならない場面もある。自分の感情を律せない人に,自営の仕事は律せない。

 顧客が決めるべきことと,プロジェクト・リーダーや他のメンバーが決めるべきことと,自分自身が決めてよいことの区別も重要だ。自他境界を明確にし,決定権を持つ人を認識し,責任の所在を理解しなければならない。

 メインの作業が「考えること」にあっても,Webプランニングはあくまで制作・開発実務の一部だ。IT業界とはいえ,あくまでモノづくりの前段階を負う,地味な仕事である。筆者が常に自省していることがある。それは,発想力と技術を磨く前に,人間力を磨かなければならないということ。これが最も難しい。手がける制作・開発物のクオリティ以前に,人間としてのクオリティを高めることが必要だ。

 さて,内面の問題についてはこのくらいにして,次回は,画面遷移図についての実践的な話題を取り上げよう。