写真1 イー・モバイルの種野晴夫・代表取締役社長兼COO。写真:吉田 明弘
写真1 イー・モバイルの種野晴夫・代表取締役社長兼COO。写真:吉田 明弘
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写真2 Windows Mobileを搭載するシャープ製の新端末「EM・ONE」(エム・ワン)
写真2 Windows Mobileを搭載するシャープ製の新端末「EM・ONE」(エム・ワン)
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3月1日,ビックカメラ有楽町店本館の「EMモバイルブロードバンド」先行申し込み受付開始イベント(関連記事1)に登場したイー・モバイルの種野晴夫・代表取締役社長兼COO(最高業務責任者,写真1)。千本倖生・代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)とともに,イー・モバイルの“顔”となる種野社長にその戦略を聞いた(拡大版を日経コミュニケーション3月15日号に掲載予定)。

他の携帯電話事業者と異なるイー・モバイルならではの強みは何か。

 我々の強みの一つはコスト構造。全くゼロの状態から移動体通信事業をスタートするため,最新の機器で安価にネットワークを構築し,従来の事業者よりも低コストでオペレーションできる。他事業者のような既存の料金プランなど過去のしがらみもなく,自由に料金設定ができる点も強みだ。

「EMモバイルブロードバンド」のターゲット・ユーザーは。

 「プロシューマー」と呼ぶ層だ。彼らはパソコンに詳しく,既に何らかの形でモバイル・コンピューティングを試している。こうしたユーザーは我々が使い方を説明しなくても,新端末「EM・ONE」(エム・ワン,写真2)を手に取ってもらうだけですぐに使い方が分かる。

 ビジネスパーソンも対象ユーザーとなる。既に企業からも引き合いが来ている。ただし,当初のサービス・エリアは東名阪なので,もう少しエリアが広がってから,企業には導入されるだろう。

データ定額サービスはネットワーク負荷が高くなりそうだが,そうした危惧はないか。

 当初はヘビー・ユーザーの加入で,ネットワーク負荷は高くなるだろうが,ネットワークの容量は十分だ。ADSL事業者である親会社のイー・アクセスの経験から,ブロードバンド・ユーザーの一人当たりの平均的なトラフィックは分かっている。ユーザー数が増えればトラフィックは平均に落ち着く。この傾向は固定でも携帯でも同じだと思っており,容量の心配はあまりしていない。

 宅内利用を考慮して,ADSLとのセット・メニューも提供する。EM・ONEを購入するユーザーは,間違いなくパソコンも持っている。ユーザーは家の中ではADSLでパソコンを使ってもらい,外ではEM・ONEを使ってもらう。ADSLサービスをセットで申し込むと追加料金なしの月5980円の定額料金で,ADSLと携帯によるデータ通信の両方が使える(編集部注:2007年3月1日から2009年2月末までに申し込んだユーザーが対象)。

加入数の目標は。

 パソコンを使っているユーザーやモバイル・コンピューティングの動向,当初のエリア展開などから判断すると,EM・ONEやデータ通信カードを合わせて30万程度。1年間で何とか達成できるだろう。

販売面も従来の携帯電話事業者とは違うようだが。

 親会社のイー・アクセスは,ADSL事業で量販店との付き合いが長い。営業担当者や販売員が既に量販店の中に入り込んでいる。今度はその部隊がモバイルの営業をする。我々にとって量販店での展開は非常に自然なことだ(関連記事2)。

端末を販売する際,ユーザーが契約期間を確約することによって価格を変えているが(関連記事3),その意図は。

 契約期間によって価格が変わること自体は目新しいことではない。既存事業者も機種変更時などには契約期間によって端末価格を変えている。現状,端末の販売にはインセンティブのような補てん金が発生する。ある程度の期間,ユーザーに契約し続けてもらわないと我々としてはその補てんした金額を回収できない。その期間の差が端末価格に反映されている。

販売面ではMVNO(仮想移動体通信事業者,関連記事4)の活用も考えているのか。

 インターネット接続事業者(ISP)であるニフティ,ソネットエンタテインメントとはMVNOの話をしている。今回のサービス提供と同時に始めたかったが,準備の都合で夏ころまで時間がかかりそうだ。ケーブルテレビ事業者などとのMVNOの話はこれから。条件次第だ。

写真3 米クアルコムのポール・ジェイコブスCEO
写真3 米クアルコムのポール・ジェイコブスCEO[画像のクリックで拡大表示]

2月19日のサービス発表会には米クアルコムのポール・ジェイコブスCEO(写真3)が出席していた。その理由は。

 それは簡単で,イー・モバイルが使う1.7GHz帯の周波数に対応するチップを開発してくれたからだ。1.7GHz帯は,第3世代携帯電話の周波数帯としては世界標準。クアルコムは我々のことを考え,2GHz帯と1.7GHz帯対応のチップを開発してくれた。これからは1.7GHz帯と2GHz帯の両方に対応できるチップが標準になるだろう。NTTドコモも1.7GH2帯を採用している(関連記事5)。

そうすると検証などは必要だろうが,NTTドコモ向けの端末がイー・モバイルでも使える可能性があるのか。

 1.7GHz帯といっても全く同じ周波数を使うわけではない。チップ自体は対応する周波数の幅を持たせているだろうが,NTTドコモにはNTTドコモのネットワーク仕様がある。移動機が動作するかどうかは別問題だ。

1年後に開始予定の音声サービスの料金も定額制にするのか。

 音声を定額制にするとは言っていないが,ユーザーにとって分かりやすい料金にする。音声サービスはデータ通信が当初狙うプロシューマーだけでなく,もう少し広いユーザー層を対象にする。そのときの料金プランをどうするかは今後の状況次第。1年間じっくり様子を見てその上で判断する。

 音声サービス提供時は,当初からNTTドコモと2GHz帯でのローミングをすることによって全国展開できる(関連記事6)。だがこの料金も今のところ決まっていない。ローミングは2010年10月までの期限付きのため,5年かけて全国に基地局を自前で整備していく。

 いずれにせよ,イー・モバイルは現在の携帯電話市場を他社と奪い合うのではなく,携帯ブロードバンドの市場を切り開いて新しいマーケットを作っていく。