初代CIOオブ・ザ・イヤーを受賞された大成建設の木内里美さんにお会いする機会を得た。5年で総コストの30%削減を実現し続けているスーパーマンだが、想像していたステレオタイプとどうも違う。

 ベンチャー企業に興味があり、技術がおもしろそうであれば自ら訪ねていく。数日後には我が社をも訪ねてくれた。このフットワークの軽さはなんだろうか。偉い方にご訪問を受けるのは恐縮だと言うと、地位が高いわけでなくテンションが高いのですと冗談をおっしゃる。

 工場土木や港の係留施設の設計を専門にしていた木内さんが情報に足をつっこんだのが1990年のこと。米国の学校の教授陣が使うシステムを見る機会があった。システムには学校の優良なガバナンスが反映されていた。それがきっかけで大成建設にもMacintoshネットワークが導入された。

 ベンチャーの技術への傾倒には持論がある。国産ベンチャー企業の技術を使うことにはリスクがないと言う。ベンチャーがつぶれたらソースコードを買い取ればいいというのだ。自社の開発陣を信頼していなければ口に出せない言葉だ。

 好奇心が旺盛で、新しいものをいち早く取り入れる、しかもそれを実践に移すという稀有な能力の持ち主だ。そうは言っても、この巨大企業で新しい機器や技術をインプリするには、相当な基盤がなければ進められないはず。実はその秘密を持ち歩いていらっしゃるノートパソコンで見せてくれた。そこには、完全な全社情報マップがあった。

 全社の組織や業務がどう関連しているかが、ヒト・モノ・カネの面からすべて可視化されている。各データには属性が示され、業務標準を作り改善をしてから、マニュアル化する。セキュリティーレベルが高いので、各部門が安心して情報開示をする。おかげで、業務標準は業務体系表となり、手順までが可視化されているのだ。

 木内さんの巧みな人間術は経営者を巻き込む。社長に抜擢されてこのポジションについた木内さんは、経営トップと話すときには情報用語は使わない。「経営者は正しい情報があれば正しい判断をする」と語る。そしてシステム部門を率いて最初に言った言葉が「システム部門の地位を上げる」だ。上司に対しても、部下に対しても信頼と尊敬を持って接している。成功の秘密を見た思いだ。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA