ベネトンジャパンの大網東市(とういち)さんが10年前に着任したとき、この会社には情報システム部門は存在しなかった。今では、会社の業務の全容を最もよく知る人物となった。その大網さんは、CIO(情報戦略統括役員)が最も忙しくまた厳しい環境下に置かれるのは、今後数年のことだろうと予測する。なぜなら、日本企業も日本版企業改革法、通称SOX法の対応に追われるはずだからだ。

 米エンロンの粉飾決算に端を発したこの新しい企業統制フレームワークは、ニューヨーク証券取引市場に上場しているすべての企業に適用される。ベネトンジャパンは、本社が上場しているせいで、日本の一般企業よりも早くこの波に洗われている。大綱さんは、通常業務に加え、2005年夏からこのプロジェクトの日本での陣頭指揮をとる。

ITだけでなくすべての業務を再調査

 SOX法に対応するためには、ITだけでなく、すべての業務の内容を再調査し、プロセスに潜むリスクを見つける作業が要求される。「やっかい事はコンピュータ=システム部がやることになるんです」。そう言いながらもSOX法への対応を着々とこなす大網さんの実力は、ベネトンと前職のドイツ系の大手物流会社で培われた。

 細かいことを要求するドイツ流マネジメントの下、どうやって情報を素早く統合し、会計情報に個々の業務を当てはめるかを学ぶ。文房具一本まで把握しようとするCEO(最高経営責任者)の下、IT部門の役割は企業統治そのものとなった。

 一方、イタリア人が経営するベネトンは仕様の要求も極めておおまかだ。ひとりからのスタートだったから、自らが部門を統制するための管理マニュアルや業務マニュアルを作成した。SOX法では、運用フレームワークの確立が大きな課題となるが、既にそれは経験済みだ。

IT部門は企業の根幹を担う

 2つの大手外資企業のIT部門を一から立ち上げた大網さんは、自社の業務プロセスを知り抜いている。企業活動のすべてに対する網羅的なアウトプットが要求されるSOX法で、IT部門に期待がかかるのは、大網さんに代表されるようにIT部門が企業の根幹を担い、企業活動のプロセスのすべてを把握するにふさわしい部門だからだ。

 CIOにとってのビッグプロジェクトが始まる。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA