これからのIT(情報技術)スタッフは、グローバルな視点で仕事ができなければならない。コダックのITスタッフは、50カ国の拠点に約1500人がいる。従来は国や地域ごとに仕事を進める傾向が強かったが、中央集権的な組織に改めた。

 当社には全社CIO(情報戦略統括役員)以外に、4つの事業部門ごとにCIOがいる。ITスタッフはこれらのCIOに仕事を報告する。以前は、一度、国ごとの拠点のトップに報告していたが、いくつかの階層を飛ばすことにした。

日本向け新システムを多国籍チームが導入

キム・バンゲルダー氏
キム・バンゲルダー氏
(写真撮影:丸本 孝彦)

 これはコンプライアンス(法令順守)やSOX法(企業改革法)の施行によって、会社が厳しくチェックされるようになったからだ。世界のITスタッフがバラバラに仕事を進めていると、法律や規制の動きに対応できない。

 また、コダックはフィルムからデジタルへ、ビジネスモデルを移行している時期にある。そんな時に、会社全体の考えや方向性を理解していないと、誤った仕事をしてしまう恐れがある。

 かつてITスタッフは国ごとに組織されることが多かったが、今は国の違いはあまり意識しない。複数の国のスタッフが、チームを作って仕事を進める。例えば日本で昨年10月に独SAP製の新しいERP(統合基幹業務)システムを導入したが、そのためのスタッフは世界中から来た。会社としての考えや仕事の進め方が統一されているから、可能だった。住んでいる場所にかかわらず、才能を持った人たちが協力して仕事を進める。そのほうがITスタッフにとっても、満足度が高い。

 もちろん、そのためにはITスタッフの日ごろからの教育が必要だ。当社では世界中からITスタッフが集まる会議を年2回、グローバルリーダーが参加する電話会議を月1回行う。隔月で、ITスタッフなら誰でも参加できる質疑応答セッションも開設。隔週で、ITスタッフ向けニューズレターを配布する。こうした機会を通じて、個々のITスタッフが会社の方向性を理解し、結論を出せるようにしておく。そうでないと、意思決定が遅くなる。

 私が2004年に全社のCIOに就いたとき、CIOの位置づけが格上げとなった。それまではCFO(最高財務責任者)に報告していたが、今はアントニオ・ペレスCEO(最高経営責任者)に直接、報告している。重要な意思決定を行うCEOエグゼクティブ・カウンシルのメンバーにも入った。それだけ会社がITを重視している証だ。

 会社のビジネスモデルがデジタルに移行するにつれ、ITスタッフの役割は拡大している。以前は社内の情報システムを構築し、運営・管理するのが主な役割だったが、今はITの立場から会社の成長戦略も考える。ITなしでは商品やサービスが提供できないからだ。例えばヘルス事業部では、顧客である病院の医療情報をデジタル技術によって、いかに効率よく保存するかが求められる。

 また、デジタル化の進展には、提携企業や資材の調達先、部品メーカーの協力が不可欠だ。フィルムの時代は、素材の調達から生産、物流に至るまでサプライチェーンの仕組みはすべて自前で構築していた。印画紙も、パルプを調達して生産し、顧客に届けるまで全部やった。デジタル商品ではこうはいかない。最終製品の包装はするが、部品などの多くは外部から購入する。例えばデジタルカメラとプリンターを一括販売するケースがあるが、異なる調達先の物流の連携が必要だ。様々な会社とやり取りするので、情報を共有化し、透明性を高めなければならない。

 こうした状況下では、いかに社内の仕組みが標準化されているかが問われる。当社は1990年代からSAP製品の導入などによって、世界中のシステムを統合してきた。SAP製品は当初、社内の業務効率化を目指して入れたが、役割が少し変わってきた。外部との提携をスムーズに進めるためのツールとしても役立っている。新しいことをやるからといって、過去に蓄積してきたIT基盤を否定する必要はないということだ。10年、20年とかけて構築した基盤をうまく生かしながら、新しい時代に対応していくことが大切なのである。

 現在、会社とITスタッフが進もうとしている道は必ずしも平坦ではない。柔軟性が強く求められる。だからこそ、CIOの役割は挑戦的で、楽しく、忘れられないものになると思っている。

キム・バンゲルダー氏
ロチェスター工科大学数学科卒業。1984年コダック入社。以来、生産や販売、マーケティングのIT構築、グローバルERP能力センター館長などを担当。2000年に研究開発部門のITディレクター、2003年にデジタル&フィルム イメージングシステムズ事業部のITディレクターを経て、2004年から現職。