アフラックのCIO(情報戦略統括役員)としての役割は2つある。1つは日々の業務としてIT(情報技術)部門を引っ張ること。もう1つは、技術が将来どの方向に進み、当社にどういうメリットをもたらすか判断することだ。前者はCIOの戦術的な側面、後者は戦略的な側面といえる。

 そして何より重要なのは、両者のバランスを取る点にある。戦略側に片寄れば日常的な問題が山積してしまうし、戦術に没頭すれば、新技術が興隆してきたときに乗り遅れてしまうからだ。

新技術の利便性とリスクに説明責任がある

ジェラルド・シールズ氏
ジェラルド・シールズ氏

 戦術面での挑戦は、新技術の導入と、そのリスクの軽減だ。当社には20年以上前に構築された古いシステムがある。このシステムは今までやってきた仕事のやり方そのものなので、変更は社員の日常業務を大きく変更しかねない。これは大きなリスクだ。だから今、各事業部の業務に影響を与えない形で、アセンブラ(機械語)で書かれたシステムを、拡張性が高く、従って寿命も長いJavaベースのシステムに切り替えようとしている。

 これはシステムの大刷新とは決していえない。だが、ビジネスへの悪影響を最小にする方法ではある。しばしばITコストの削減を目標に新技術を導入するCIOを見かけるが、リスクにまで目配りできなければ優れたCIOとはいえない。

 仮に新システムの導入でコストが大幅に下がっても、ビジネスが2週間ストップしたら、貴重な事業機会を失う。つまり、CIOは各事業ユニットに対し、常に新技術の利便性とリスクの双方について説明責任がある。彼らはCIOにとってのお客さまなのだ。

 一方、戦略面の仕事は、3~5年先に実現する技術を常に見据え、準備を怠らないことだ。ここで重要なのは、事実とフィクションの峻別。ITベンダーが説明する将来技術について、「この技術はかなり高い確率で実現する」「これは実現しない」と、しっかり区別できなくてはならない。

 その点、私のベンダー勤務経験は、技術の実現性を読む力の点でプラスに働く。同時に、社内に数人の専属グループを設け、将来の先進技術の方向と実現性、そのタイミングを報告させている。

 米マイクロソフトのビル・ゲイツは「企業は3~5年先の技術については過大評価し、5~7年先の技術については過小評価しがちだ」と述べている。どの技術がいつ実現し、いつ自分の会社が準備すべきなのかの判断は難しいものなのだ。

 今後の主なIT投資対象は、画像や文書に関する新技術や、顧客自身のセルフサービス技術などが候補になる。2002年の入社以来、データベース技術をネットワークでよりよく活用できるよう投資を重ねてきたが、その発展がこれに当たる。

 顧客から保険請求が来た場合、今は人が内容を読み、担当者に割り振る。これを、ITが文書の内容を判断し、担当者に届けるのが文書画像技術だ。セルフサービス技術は、請求や払い込みなどに関して、代理店の手を煩わさずにITを使って顧客が操作できる部分を増やすのが狙いだ。

 またVoIPや、異種システムを連携するインテグレーション・ブローカー技術、ウェブサービスなどの将来技術にも注目している。

 戦略面・戦術面と並んでもう1つ、CIOとして注力する大きな柱は人材育成だ。毎週月水の2日間、全社で約520人のIT部門のうち、幹部60人を集めて勉強会を開いている。1冊の本を題材に議論したり、各人が抱える様々な問題について、役職の上下や職場の違いを超えてアドバイスし合い、リーダーシップの育成を図る。最近は「エクゼキューション(実行)」をテーマに議論した。IT業務は、(米フォード・モーター創設者で自動車王として知られる)ヘンリー・フォードが言ったように、「やるつもりのことではなく、やったことで評価を築く仕事」の典型である。

 ITのプロは、技術の仕事も人を通じて成し得ていることを忘れがち。今や1人でカバーできる専門領域はどんどん狭くなり、逆に企業活動におけるIT領域は広がっている。チームを動かせる人間力を身につけることが、優れたITリーダーの条件になる。

ジェラルド・シールズ氏
米ベイラー大学(テキサス州)にて会計とコンピューターサイエンスを専攻。大手IT(情報技術)サービス会社の米EDSの上級管理職、米ライフウェイ・クリスチャン・リソースのCTO(最高技術責任者)などを経て、2002年にアフラックに入社。2004年秋から現職。