石堂氏写真 筆者紹介 石堂 一成(いしどう・かずしげ)

1948年生まれ。京都大学工学部数理工学科卒業。工学博士、技術士(情報処理部門)。三菱重工業、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1991年に東京コンサルティング(株)を設立し、代表取締役社長に就任。日本国内、欧米、東南アジアで、事業戦略・マーケティング戦略・提携戦略・システム戦略・業務改革・組織改革などのコンサルティングに従事。システム分野には特別に注力し、日本経済新聞社などと国内主要企業の「システム格付け」を実施したほか、2005年から日経BPガバメントテクノロジーと自治体の「システム格付け」を実施している。2003年に外務省CIO補佐官にも就任(現任)。著作は、「オープン時代の情報システム」(共著、富士通経営研修所)など。

 日経BPガバメントテクノロジーと東京コンサルティングが昨年実施した「第2回自治体の情報システムに関する実態調査」の結果から、自治体の住民指向に関して分析してみた。住民サービスの提供方法をどのように検討し、どんな効果をあげているのだろうか。

■システム化・オンライン化の事前検討が不十分

 まず、個別の施策の実施率を見てみよう(図1)

■図1 住民指向の取り組み(n=427)
住民指向の取り組み

 ITを活用した住民サービスの企画にあたり、「庁内での事前検討(図1-I)」は比較的行われていると言える。具体的には、(1)システム化・オンライン化以外も含めたサービス改善方法の検討は39.1%、(2)国か都道府県が推進するシステムの有効性・仕様などの再検討は37.0%、(3)地域の住民構成・インフラ整備状況等の特性を考慮した、システム化・オンライン化の必要性や対象の検討 は31.6%、(4)情報システムの利便性向上のための、ルール・手続きの見直しは23.7%である。

 これに比べると、「住民のニーズ・意見に基づく事前・事後検討(図1-II)」の実施率は低い。具体的には、(5)住民からの意見・苦情の分析による、現行サービスの問題点の抽出は27.6%、(6)アンケート等による、住民本位のサービス改善の方向性の特定は20.6%、(7)全住民のうちシステム化・オンライン化の主たる受益者・メリットの明確化は14.5%、(8)情報システムのリリース後の、住民の意見・満足度の把握と反映は11.5%、(9)情報システムの機能・操作方法への、住民の意見の反映は5.9%と少なくなっていく。

 「利用の促進策(図1-III)」となると、ほとんど行われていないに等しい。(10)利用者拡大のためのPR方法・インセンティブの体系的検討は6.8%である。これらの施策の実施率を見れば、自治体の住民指向はまだまだ不足していると言わざるを得ない。

 特に気になるのは、「住民のニーズ・意見に基づく検討」の方法である。何を基に住民の意見・ニーズを把握するのかを見ると、実施率の高い順に、意見・苦情の分析、アンケート等からの分析、そして、全住民のうち主たる受益者・メリットの明確化となっている。住民からの情報をより能動的に分析する必要がある方法ほど、実施率が低くなっていくようだ。

 あるサービスをシステム化・オンライン化することが有効か否かを判断するには、前提としてインターネットの普及率はどうか、そのサービスに対するニーズがどのくらいあるか、ユーザー層の内訳はどうか(勤労者・主婦・退職者・就学者など)、オンライン化で特にメリットを受けるのはどんな層でどのくらいの人数がいるか(平日に来庁しにくい勤労者など)、ITリテラシーが高い層かどうか、といった実態の把握が欠かせないはずである。主たる受益者・メリットを明確化できていないということは、システム化・オンライン化が有効かどうかも含めた事前検討ができていないことを意味する。

■住民指向でシステム化に取り組むほど高いコスト効率

 そうした中でも、住民指向でシステム化に取り組んでいる自治体ほど、高いコスト効率を達成していることも確かである。各自治体の住民1人当たりシステム予算額、および窓口サービスと情報提供・公聴のオンライン化の効果が、住民指向の取り組み内容によりどう違うかを分析した。

 まず、住民指向の取り組みにより自治体を4つにパターン化した(図2)。何の施策も採っていない団体を「パターン1」、庁内での事前検討(図1-I)か利用の促進(図1-III)の施策のみ1種以上実施している団体を「パターン2」、住民ニーズ・意見に基づく事前・事後検討(図1-II)の施策のみ1種以上実施している団体を「パターン3」、庁内での事前検討か利用促進の施策、および住民ニーズ・意見に基づく事前・事後検討の施策を1種以上ずつ実施している団体を「パターン4」と分類した。

■図2 住民1人当たりシステム予算額、およびオンライン化の効果(住民指向の取り組みレベル別)
住民1人当たりシステム予算額、およびオンライン化の効果(住民指向の取り組みレベル別)
(注1)パターン別に各自治体の2003~2005年度平均額、人口より算出。
(注2)本文の(注2)を参照。
(注3)システム予算総額を把握しており、何らかの届出・申請、および情報提供・公聴手段をオンライン化している自治体のみ

 すると、パターン1から4の順に、各自治体の住民1人当たりシステム予算額(注1)は低くなり、窓口サービスと情報提供・公聴のオンライン化効果(注2)は多様になっていくことが分かった。ここから2つのことが読みとれる。まず、住民指向の何らかの施策に取り組む方が、システム化のコスト効率が高くなること。さらに、施策をいくつかに分類すれば、庁内検討や利用促進より、住民ニーズ・意見の把握・反映の方が、システム化のコスト効率を高める効果があり、しかも双方に取り組めばなお良い結果が得られるということである。

(注1)パターン別に、各自治体の2003~2005年度平均額の計、人口の計より算出。

(注2)次の2領域AおよびBをオンライン化した各自治体について、実現したと回答した効果の数(複数回答式、合計13種)のパターン別の平均。

A.何らかの窓口サービスのオンライン化(公的個人認証を要する電子申請・届出、公的個人認証を要さない電子申請・届出、電子申告、電子収納、電子入札/調達、施設予約)によるもので、以下の6種類。

  1. 各種の申請・施設予約場所の拡大(自宅・事業所/情報キオスクなど)
  2. 各種の交付場所の拡大(情報キオスクなど)
  3. 窓口業務のワンストップ化
  4. 夜間・休日対応化
  5. 待ち時間も含めての所要時間の1割以上の短縮
  6. 窓口サービスについて利用者(住民・事業者など)の満足度の向上
B.情報提供・公聴のオンライン化によるもので、以下の7種類。
  1. 簡単な内容の問い合わせの減少
  2. 多様なライフスタイルに合わせた24時間の情報提供・意見受付の実現
  3. 情報アクセシビリティの向上
  4. 災害情報・統計情報・議会情報の迅速な提供の実現
  5. 入札/落札情報の迅速な提供の実現
  6. 住民からの意見の増加
  7. 情報提供・公聴サービスについて住民満足度の向上