エンパワー・ネットワーク
プリンシパル
池田 輝久

経験の浅いSEや営業担当者の成長を促し,ビジネスの成功へと導く効果的な方法がある。「先輩がリハーサルの相手をして鍛えることだ」と著者は自らの経験をもとに訴える。先輩を前にしたリハーサルは驚くような効果をもたらす。リハーサルによって,顧客への説明の練習や予想される質問への対応ができ,提案内容の品質とスキルの向上につながる。提案の質と提案者のスキルが高ければ,顧客の評価は悪いはずがない。ビジネスの成功が待っている。



 SEや営業が思うような働きをしてくれない。SEや営業のスキルがなかなか向上しない。こうなると経営者の方々は,人材を育成し仕事の質を高めるために,研修プログラムの強化を命じることになる。多くの人手,時間,コストをかけてSEや営業が成長してくれることを夢見る。しかし報われる喜びを感じるよりも,なかなかうまくいかないことにイラつくことのほうが,圧倒的に多いだろう。

 実はよい解決策がある。それは“リハーサル”である。

効果絶大,先輩相手のリハーサル

 私は1974年に日本IBMに中途入社した。私自身は政治学科の出身で,全くコンピュータに関する知識も関心もなかった。学生時代に英会話を習っていたことが,外資系に入社した唯一の動機だった。就職試験の願書には営業志望,最終面接ではSE志望と書いた。

 採用してくれたマネジャの「システムがわからないと,IBMの営業は務まらない」とのアドバイスで,SEを3年間頑張ることになった。1年半の新人研修,その後の約3年間のSE時代を通じて最も感謝していることは,先輩がいつもリハーサルをしてくれたことだ。技術的な素養の全くない私でも,一生懸命に準備し,先輩にリハーサルをしてもらうと,お客のもとでは何とか仕事をこなせたのだ。

 リハーサルで先輩は,本当のお客のように接し,本当のお客になりきって質問してくれた。リハーサル後に修正作業があるので,帰宅は深夜になってしまう。しかし翌日,客先でうまくいき「ありがとう」,「よくわかった」とお客に言われたときの喜びは格別だった。逆に,リハーサルで予想できなかった質問が出たときはパニックに陥り,脂汗をかいたのを覚えている。

言い尽くせないリハーサルの重要性

 リハーサルは驚くような効果をもたらしてくれる。

●高い品質:SEも営業も,本人が持っている(と思っている)力を本番で発揮することは簡単ではない。だれもが経験したように,お客の前では言いたいことの半分も言えないものだ。特に,説明資料に誤りがあったり,予定しない質問や意見が出されたりするとパニックに陥ってしまい,準備していた内容やシナリオは頭のなかから消え去ってしまう。

 リハーサルをすることで,(1)誤字・脱字の訂正,(2)論理・シナリオの修正,(3)説明の練習,(4)予想される質問への対応ができる。結果として,提案内容の品質が高まり,ビジネスの成功につながる。

●スキルアップ:“スキルの向上は経験の数による”と言われている。本番では1回しか経験できないが,リハーサルを含めると,経験の数は2回にも3回にもなる。しかも,同じことを短期間で何度も行うので,スキルが身に付く度合いは高い。

●お客の満足:提案内容の品質が高くて提案者のスキルが高ければ,お客からの評価は悪いはずがない。(1)提案内容は正しく評価され,(2)あなたや会社は高く評価され,(3)検討内容の精度は高くなり,(4)検討期間は短縮される。さらに,その後の交渉も驚くほど効率的になるはずだ。

●自信向上:リハーサル中は先輩の厳しさは耐え難いほどのものかもしれない。しかし,本番がうまくいったときの栄誉は,すべて自分のものとなる。「先輩が教えてくれたのです」と言いたくなるが,そんな必要はない。あなたがいい仕事をすること,お客に評価されることが先輩の仕事であり喜びである。成功の体験はあなたの自信になり,次の難関の突破につながる。