エンパワー・ネットワーク
プリンシパル
池田 輝久

若者たちには,学生時代の合コンでみせたスキルをビジネスの現場でも見せてほしいと,筆者は訴える。SEや営業の存在価値は“他社との差”を訴えるところにあるが,そこに彼ら彼女らのスキルを生かせるはずだ。いずれにせよ“差異化スキル”を高めなければ,競争が激化する一方のビジネスのなかで生き残ることはできない。お客に,自らの人となり,会社,製品,サービス,ソリューションを「最高だ」と胸を張って売り込んでほしい。



 SEや営業の存在価値は“他社との差を訴える”ことにある。会社や製品,サービス,ソリューションを単に説明するのであれば,彼らや彼女らは必要ない。会社案内やブローシャを読んでもらえば十分だ。

 経営者の方々は,「うちの社員は大丈夫」とおっしゃるかもしれない。しかし,私の研修経験に照らすと現実は全く違う。

 研修では参加者に会社の紹介をしてもらっているが,「なるほどすごいな」と感心するような説明に出会ったことは一度もない。マネジメント層の方々も同様である。会社の特徴を明確に言えない人たちが,製品やサービス,ソリューションの違いを表現できるとはとても考えられない。

 今こそ,現場の現実に目を向けて,“差異化スキル”を高めなければ,激しい競争のなかで置き去りにされてしまうに違いない。

ブランドの幻想

 SEや営業は,自社の製品やサービス,ソリューションが圧倒的に他社のものより勝っていることを望んでいる。だから経営者は,企画や開発の担当者に対して,そのようなものを作るように指示を出す。しかし現実問題としては,そんなモノ(製品,サービス,ソリューション)はほとんどないし,存在しても他社に追い上げられており,いつまでも安泰ではない。

 売るモノのブランドが市場で絶対的なものとして確立していれば,営業は不必要だ。トヨタやソニーのようなブランドがあれば,営業が楽でいいなとだれでも思いがちだが,こうした会社は最も強い営業集団を維持する努力をしていることを忘れてはならない。

ブランド力と営業力の複雑な関係

 私の経験でも,ブランド力と営業力の関係は極めてやっかいな代物である。どの会社もそれら両方を持ちたがるし,そのために努力している。

 営業力が最も鍛えられるのは,会社がまだ小さく,実績もなく,市場で認知されていないときだ。想像していただきたい。若い営業が汗をふきふきお客を訪ねていくが,お客は聞いたことのない会社の営業に簡単には会ってくれない。

 しかし彼あるいは彼女は自らを鼓舞し,翌日の訪問に立ち向かう。やっと会ってくれるお客に出会った。会ってくれたお客に感謝するとともに,一度しかないだろうチャンスを確実にものにしようと,会社や製品の紹介をする。説明はありふれたものではないはずだ。今までの厳しい営業経験で鍛えぬいたスキルを駆使して,以下のように説明するだろう。

【会社】聞いたことはないが信用できること,小さいがすばらしい会社であること,経営者が魅力的であること。

【製品】大手の会社の製品に比べて機能や性能が画期的であること,価格が魅力的であること,使われている実績があること。

【自分】聞いたこともない会社で頑張っているすばらしい若者であること,明るくて元気がよく好感が持てる。

 この営業は媚びへつらったりはしないが,ぜひ応援してあげたいと思わせる何かを持っているだろう。まさに営業力の極致だ。

ブランド力と営業力の微妙な関係

 会社は営業力を武器に徐々に成功を納め,大きな会社へと成長する。成長とともに,会社の名前は市場で認知され,製品も知らない人はいない存在になる。新入社員の学歴は高いものに変わる。一部の人たちは会社がまだ小さかったときを覚えているが,多くの社員には実感のわかない昔話になる。社長は激をとばす。「今年こそ勝負。一人ひとりの営業力で勝利をつかめ」と。

 営業の研修体制も立派になったし,営業のツールやサポート体制も問題のないものである。しかし,個々の営業の力は落ちているように感じられてならないし,解決する方策も思い当たらない。一部にスーパーな営業はいるのだが…。

 この話は寓話だが,ほとんどの経営者が日ごろ感じていることに違いない。会社が大きくなり,ブランドが強くなると,個々人の営業力は低下する。

 今や,ゲームのルールは変わった。個々の営業力ではなく,会社としての総合力で勝負している。デファクト・スタンダードといわれる製品を持っている会社はその典型かもしれない。会社や製品が圧倒的なブランド力を持っている場合,差異化の力は絶対的だ。営業やSEによる差異化は必要ない。しかし,これがいつまでも続くものではないことは歴史が証明している。

 では絶対的なブランドを持っていない多くの会社の戦略はどうあるべきだろうか。