エンパワー・ネットワーク
プリンシパル
池田 輝久

筆者は講演で,「朝起きたとき,会社に行きたいと思うか?」との質問をしているが,実に約8割の人たちが「会社に行きたくないと思う」と答えている。こうした状態に陥るのはなぜか。自らを奮い立たせる力である“モチベーション力”が不足しているからだ。筆者は自らの体験を交え,モチベーション力を高める要諦を示す。趣味やスポーツに親しむことの重要さ,親や先輩,歴史,偉人に学ぶ姿勢の大切さを指摘する。



 経営者はどうにかして社員(マネジメント層や一般社員)を元気づけようと必死だ。ものすごいスピードで変化するビジネス,厳しい経営環境,日に日に激化する競合。この苦境を切り抜ける切り札は社員のやる気だということに疑問を持つ人はいない。しかし経営者の熱い思いは,空回りになってしまいがちだ。

 私は40のビジネススキルを定義しているが,そのなかで,どれが欲しいかと問われれば,迷うことなく“モチベーション力”と断言するだろう。自分自身を元気付ける力“モチベーション”スキルこそは,すべてのビジネススキルの礎となるものなのだ。

組織社会の悲惨な現実

 社会人になると,何らかの形で組織社会のなかで生活をすることになる。そこには身近な仲間・先輩・上司,身近ではないが強い影響力を持ったより上位のマネジメントや経営者,日々の仕事の大切な相手であるお客が存在する。与えられたビジネス目標,解決しなければならない問題,できるだけ早く吸収・理解しなければならない新製品や新サービスもある。会社の将来へのぼんやりとした不安,仲間の転職,マスコミから聞こえてくる世の中の動きも気になる。どれをとっても元気が出る材料と思えるものは乏しい。

 私はビジネススキルの研修や新しく始めた『ビジネススキルCHECK』サービスのなかで,「朝起きたとき,会社に行きたいと思うか?」との質問をしているが,それに対する返答はとても経営層の人たちに伝え難いものだ。約8割の人たちが「朝起きたとき,会社に行きたくないと思う」と答えるからだ。

 経営者や会社を引っ張っているマネジメントの人たちを見ていると,仕事は彼らにとって何よりも大切なものだとヒシヒシと伝わってくる。彼らが仕事に打ち込んでいる姿を見て,うらやましいと思う人や自分も同じようになりたいと思う人もいるし,逆に“仕事人間”と言って冷ややかに見る人もいるかもしれない。90年代に入ってからは,仕事人間は嫌われ,仕事以外に趣味や生きがいを持った人のほうが賞賛される傾向が強くなってきた。『ビジネススキルCHECK』での回答でもそれは明らかである。趣味や自分の好きなことに対する「熱意」は極めて高いのだが,仕事に対しては「熱意」を持てないという人がとても多いのに驚かされる。

リフレッシュは重要なスキル

 私たちは日々の生活のなかで仕事のストレスをうまくコントロールしようと努めている。目の前に積み上がった難題・重責・人間関係のイライラを,違ったことに目を向けることで気分転換して,自分自身を元気づける。だれもが自然に,うまくやっているように思える気分転換にも上手下手がある。ということは,それもスキルなのである。

 皆が一様に行っている気分転換法はオフタイムのものだ。平日の会社が終わった後,週末の休みの日,一人ひとりがそれぞれのやり方でリフレッシュする。“会社の帰りに仲間と一杯”こそは,最も一般的で伝統的なリフレッシュの方法だろう。だが,私はこの気分転換法はあまりお勧めできない。

 同じ職場の人たちとそれぞれの悩みや不満を共有することで安心感を持つことがほとんどであり,とても後ろ向きな気分転換で,リフレッシュとは言い難い。グチや不満ではなく,夢や希望といった元気づけてくれるものにもっと目を向けよう。