エンパワー・ネットワーク
プリンシパル
池田 輝久

SEや営業はいま,ソリューションを提案し,売ることが求められている。ソリューション時代のお客の関心は,単体としてのIT製品の性能や仕様ではない。それらの製品が,業務にどのような効果をもたらすのかという点である。製品の性能や仕様ならベンダーにとって自家薬籠中のもの。しかし業務にかかわる事柄となると,本当に詳しいのはお客である。ではどうするか。筆者は,お客を自分の土俵に引き込む六つのポイントを挙げて,SEや営業を励ます。



 「“箱売り”から“ソリューション・セリンング”への転換」という営業戦略をよく耳にする。「製品だけを売っていたのでは競争に勝ち残れない。お客の問題や課題を解決するソリューションを売るのだ! お客から声がかかるコンサルタントに転換しなければならない」と,経営者はげきをとばす。

 しかし,その目標が達成できていると自信をもって言える経営者はいないはずだ。声をからし訴え,いろいろなプログラムを実施しているにもかかわらず,実現できていない。真の原因に目を向けなければならない。それを解決したときに初めて,ソリューション・マーケティングが実現する。

懐かしの「箱売り」時代

 IT産業は長い間,売り手主導の産業だった。お客に紹介する製品やサービスをよく知っているのは,売り手のベンダーである。お客は,新しい技術が魔法のような効果を与えてくれると信じていたので,ベンダーの営業やSEが語る専門的な技術用語に酔いしれた。他社の担当者が,筆者の知らない専門用語を駆使していると,なぜか素晴らしいチャレンジをしていると感じたものだ。その際に話題になったのは,専門的な技術用語や仕様だった。「箱売り」そのものである。

 しかし,筆者は「箱売り」という表現は好きになれない。いろいろな会社の経営者やマネジメントの方々が,「今までは箱売りだった」とおっしゃるが,それは自虐的すぎる。「箱売り」という表現は英語の「Box Selling」の直訳だろうが,営業やSEに対する非常に失礼な言葉である。

 彼ら彼女は何も箱売りをしていたわけではない。最も効果的な営業方法が,自社製品の技術的な特徴を説明することだったし,他社に対する優位性をお客に力説することだったのだ。最も効果的に「モノ売り」をしていただけである。

 しかし時代は変わった。他社に比べた技術面での優位性は差異化要因ではなくなった。どの会社も,素晴らしい製品を提供できる時代になった。技術的な優位性は,一部の担当者の自己満足をくすぐったとしても,経営上の課題を解決するかどうかは分からない。

 筆者はIBMの営業時代,お客にこう尋ねたことがあった。「あなたは優秀な大学の出身ですか?」。お客は「なぜ,そんなことを聞くんだ」と逆に質問する。私は答えた。「高学歴の人ほどコンピュータをたくさん買ってくれるからです」と。

 60年代から80年代にかけては,間違いなく高学歴の人こそ最高のお客だった。彼らは,まだだれも使っていない新しい技術を利用したがったし,他社よりも多く使っていることが自尊心をくすぐった。

 コンピュータのりん議の決済を取り付けるのは容易ではなかったが,高学歴者であれば,導入の必要性と効果を論理的に,しかも数値を交えて説き,トップを説得することができた。しかし熱意はコンピュータの導入でクライマックスに達し,導入後の効果はあまり問題にされなかった。それでも,売る側も買う側も満足した時代だった。