NECは、複数の無線ICタグを漏れなく読めるように工夫したUHF帯対応ゲート型無線ICタグリーダーを開発した。UHF帯ICタグシステムの大きな課題であるリーダー間の干渉を避けやすく、ゲートの近くに置かれた荷物のICタグを誤って読みにくいという特徴がある。ゲートシステムに組み込んだアンテナの取り付け場所を工夫し、反射板を組み合わせることで読み取り性能を高めた。システムの価格は800万円からである。

 UHF帯ICタグシステムは通信距離が長いため、フォークリフトや台車で運ぶ荷物に付けたICタグを一括読み取りする用途などに向いている。しかし通信距離が長いことには弊害もある。リーダーアンテナの近くにICタグを付けた荷物があると、誤って読み取ることがある(図1)。物流センターでトラックが横付けするドックドアが複数あり、それぞれにゲート型リーダーを設置したら、「隣のゲートを通過した荷物のICタグを読んでしまい、どのゲートを通過したのかが分からなくなることさえある」(NEC制御システム事業部技術戦略エキスパートの村山裕樹氏)という。

図1 NECのゲート型ICタグリーダーの仕組み  従来のゲート型リーダーは電波が遠くまで広がったが、NECのリーダーではゲート内にできるだけ電波を閉じ込める。ゲート内に取り付けた反射板の数は明らかにしていない。 【クリックすると拡大表示】

 通信距離が長い分だけ、近接したリーダー間の干渉も発生しやすい。特に日本では、高出力型リーダーに2MHzしか周波数帯域が割り当てられておらず、リーダーが近い周波数チャンネルで通信するとさらに干渉しやすくなる。

 今回のNECのリーダーはこうした問題を避けるため、ゲートの両側に反射板を取り付け、電波をゲート内にできるだけ閉じ込めるように工夫した。

反射板で真横から電波を発射

 今回のゲートシステムの中に、アンテナは4個組み込んである。そのうち2個は上部(図1の(2)(3))に設置してあり、ゲートを通過しようと近づいてくる荷物の前面に張り付けられたICタグと、ゲートを通過したあとの荷物の背面に張り付けられたICタグを主に読み取る。このアンテナは上から床の方向に電波を発射するため、あまり遠くまで飛ばず、近くにある余計なICタグを読み取ったり、干渉を起こしたりする危険性は低い。

 工夫しているのは、ゲートの側面から電波を発射するために取り付けた2個のアンテナである。これもゲートの上部に、床に電波を発射する向きに設置している(図1の(1))。ゲートの側面には複数枚(枚数は非公開)の反射板が取り付けられており、これが上部から発射される電波を反射し、ゲートの真下を通過する荷物に真横から電波を照射する。

 図1左に示したように、通常のゲート型リーダーが余計なICタグを読んでしまうのは、UHF帯のアンテナが通常、上下左右にラグビーボール状に広がる電波を出すからである。これに対してNECのリーダーでは、アンテナから下に発射される電波は周りに広がりにくく、ゲートを通過する荷物には、反射板に反射した電波だけがピンポイントで届く。このためゲートの真下以外の場所に電波が漏れにくい。またアンテナから反射板に当たってゲート内に出る電波は、アンテナから反射板に到達するまでにある程度減衰しているため、あまり遠くまで飛ばない。さらに、ゲートの真下にはないICタグからの反射波が、ゲート側面の反射板に反射して上部のアンテナに届いて受信される可能性も低い。このようにゲート内に電波を閉じ込めることで、周りの余計なICタグを読む危険性を小さくした。



本記事は日経RFIDテクノロジ2006年11月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです