ガートナー ジャパン 亦賀 忠明 氏 亦賀 忠明 氏

ガートナー ジャパン リサーチ部門 エンタープライズ・インフラストラクチャ担当バイス・プレジデント。
インフラ市場全般について、ベンダー戦略、ユーザーIT戦略などに関する様々な提言・アドバイスを行っている。

 このところ「仮想化」への関心が,予想以上に高まっている。ユーザー企業との対話の中で分かってきたことは,最近ユーザー企業の関心がITインフラ全体へと拡大している,ということである。気が付いたら増えてしまっていた,ばらばらな状態のサーバーをもはや放置しておくわけにはいかないと考え,そのための有効なソリューションとして,サーバー環境などを仮想化するテクノロジに期待し始めているのだ。

 さてこの話,ここまではITベンダーなどのシナリオに,ユーザー企業が確実に付いてきているということである。ITベンダーやSIerにとっては,これから数多くの商談が期待できるという意味で朗報ではある。

 確かにここ数年,ITベンダーはさまざまなメッセージやソリューションを語ってきたし,ユーザー企業も新しいアイデアを次々に吸収してきた。結果として最近,多くのユーザー企業が「シンプルなインフラは重要であり必要」と考え始めている。

 これまでのように「どの製品が安いのか」ばかりに関心が集まるといった状況ではない。一部のユーザー企業は「ユーティリティのような考え方は確かに有効」と考え,自ら中長期ビジョンを確立し,こうした先進的な考え方を取り入れたインフラを構築しようとしている。

 実際,仮想化だけを取ってみても,x86プロセッサ,VMwareのようなミドルウエア,Unix,IBMメインフレームなどをベースにしたテクノロジがある。OSS(オープンソースソフト)であるXen(ゼン)への期待も高まっている。

 仮想化と併せて提案するケースが多くなったブレードシステムは,既に一般的なインフラととらえられるようになった。仮想化に近いところでは,Oracleのグリッドやアプリケーションサーバー周りのSOA(サービス指向アーキテクチャ)への取り組みも,引き続き活発である。運用管理ツールも,インフラ全体を自動制御する基盤へと移行しようとしている。

 しかしながら,問題はここからである。ユーザー企業の目的が“シンプルな先進インフラ”の獲得にあるとして,ではいったい誰がそれを作れるのか。また,どうやって作ればよいのか。新しいテクノロジをどう組み合わせればよいのか。組み合わせることだけで,本当にシンプルなインフラを実現できるのか。そもそも,なぜシンプルなインフラでなければならないのか―。

 こうしたことに明確に答えられるITベンダーやSIerは,現時点では少数である。確かに,ITベンダーやSIerには,大きなビジネスチャンスが生まれつつある。しかし,それを確実にビジネスに変えることができる者は,確かなスキルを持つ者だけとなる。語るだけでできない,もしくは語ることもできないITベンダーやSIerは将来,市場から振るい落とされる可能性がある。

 昨今のテクノロジの高度化は,ITベンダーやSIerにとっての新たなビジネスチャンスであるが,そのハードルは相当高い。ユーザー企業の期待は裏切られるのか,それともかなうのか。

 ITベンダーやSIerは,かつてないことが起っているととらえ,まずは自社の体制やスキルの実態を早急に点検しておくことが望ましい。