エンパワー・ネットワーク
プリンシパル
池田 輝久

ビジネスと映画は同じである。多くの人物が登場し,様々な行動をし,クライマックスへ向かっていく。営業担当者やプロジェクトマネジャは,自分が主役になれる,ビジネスのシナリオを1枚の紙にまとめ上げるべきである。そして,シナリオに沿って先手先手の活動を展開していく。重要な案件のシナリオ・チャートは必ず壁に張って,関連するメンバーの人たちと共有する。社内外の人たちがシナリオ通りに演じてこそ,ビジネスの勝利を勝ち取れる。



 ビジネスは映画だ! 筆者はこう考えている。実際,ビジネス活動を振り返ってみると,一つひとつの出来事があたかも映画のワン・シーンのように感じられるものだ。年間の売り上げ目標,個別の競合案件での勝利,プロジェクトの成功裡のカット・オーバーといった目標があり,その目標を達成するために多彩な人たちが登場する。お客様では社長・役員・システム部門のマネジメントと担当者・利用部門のマネジメントと担当者,自分の社内では社長・役員・上司・仲間,加えてビジネスの達成に協力してくれる社外の仲間がいる。

 忘れてならないのは競合相手の人たちだ。彼らがいなければ,独り相撲のつまらない作品になることは間違いない。大まかにみても,あなたのビジネスの登場人物は30人から50人くらいにはなるはずだ。

 目的を達成するための社内会議,お客様の真意を探るための会食,時には一生懸命ゆえに起こる仲間同士のいさかい。ホッと息をつくような,顧客の事務所があるビルの警備や受付の人たちとの雑談もあるだろう。どの場面をとってみても映画で見たことがあるものばかりだ。

 次第に物語は佳境へと向かっていく。勝利を得るために繰り広げられる競合各社のすさまじい最後の攻防。どの社に決めようかと迷いに迷うお客の姿。勝てるという自信と負けるのではという不安の中で,勇猛果敢に頑張っている主役のビジネスマン。彼の悩みを聞いてあげたり励ましたりする家族。

 ついにクライマックスを迎える。顧客の経営陣を前にしての提案説明会,これが最終決定の勝負の場面だ。お客から厳しい質問が飛び交う。主人公は,その質問を的確にさばいたり,質問に困惑しながらも何とか切り抜けている。競合他社に決定的な差をつけるために,主人公は,彼が所属する企業の社長に依頼し,顧客に向けて逆転の大技を出してもらう。ついに勝利を手にした。さあ,エピローグだ。祝勝会の中で,今までの苦労が楽しい思い出として語られる。裏方として応援してくれた人たちもうれしそうだ。

営業担当者が監督である

 映画はだれによってリードされているのだろう。監督である。会社という製作者のもとでビジネスを展開する,営業担当者はビジネスの監督と言ってよい。その監督のもとで日々の営業活動が展開される。営業担当者が会社を代表してお客に接している以上,現場の状況を的確に把握しているのは営業担当者をおいてほかにない。

 プロジェクトであれば監督はプロジェクトマネジャだ。監督の役割を演じるプロジェクトマネジャには,現在の状況も今後の展開も見えているはずだ。プロジェクトマネジャがシナリオを描いて,自分で監督をしなければ,一体だれがしてくれるというのだ。

 社長やマネジメントがシナリオを描き,営業担当者にその通りに演じろと強要することも多い。だが,そのシナリオは過去の経験から書かれたものであって,今現在の生きた内容とは言い難い。アドバイスとしては価値があるかもしれないが,勝利のシナリオではない。

 しかし,ビジネス・シナリオをきっちりと作ってビジネスを展開していた営業担当者は昔も少なかった。特に,最近ではビジネスのサイズが従来に比して小さくなってきたし,ビジネスのサイクルがとても速くなってきたため,営業やSEがチームになってシナリオを練ってビジネスを推進しているという話はますます聞かない。

 それではすべてが後手後手になってしまうし,自分が主体となったビジネスは展開できないため,その面白味や醍醐味も感じられないだろう。それでは,ビジネスの質を高めることはできないし,個々人のスキルも高くはならない。