エンパワー・ネットワーク
プリンシパル
池田 輝久

経営者やマネジャは今こそ,「パワー・マキシマイゼーション(戦力の最大化)」に挑戦するときだ。お客様に最も近い戦力である,現場の若手営業とSEに,ビジネススキルに目覚めた“主役”になってもらおう。その時こそ,彼らは成長し,経営者も「社員の活性化」という長年の夢がかなう。まずマネジャが率先して仕事をやってみせ,その上で仕事を彼らに任せることだ。成功するように気を配り,成果を出した若手を誉めることが重要である。



 野原や道端で見かけるたんぽぽは,黄色い花を咲かせた後に,白くやわらかな綿毛をたくさんつける。それらの小さな子供たちは,やがて風に吹かれて親から離れ,まだ見ぬ広い世界のあちこちへ飛んでいく。綿毛は自分の居場所を求め,自分の花を咲かせるために,ふわふわとさすらう。ある者は空高く飛び,ある者は地面すれすれを休み休み流されて,いずれは各々の住むべき場所を見いだす。

 一つの所に落ち着いた綿毛はまず,しっかりと根を下ろしていく。果たしてこの場所で良かったのかと不安を抱き,この景色に黄色い花を咲かせることを夢に描きながら。その場所は,草原だったり,ひび割れたアスファルトの地面だったり様々だ。それでも綿毛は力強く育っていく。彼らは,土と水と光が少しでもあれば,どんな場所でも生きていける。

 土はしっかりと根をつかんでくれ,養分を与えてくれる。水はあらゆる生命の源で,光はたんぽぽを上へ上へと導いてくれる。こうして葉や茎がみずみずしい緑色になり,明るい黄色の花びらをつけるようになる。

 小さくてふわふわしていた綿毛は,土と水と光に支えられてぐんぐん成長し,やがては立派なたんぽぽになる。企業が成長するには,最初は綿毛のような若手社員を,実力派に育て上げなければならない。

 企業のトップの方々は社員の育成を常に真剣に考えてきたと思う。現場のマネジャたちも部下を育てようと努力してきた。昔からそれなりの土と水と光を用意したはずなのに,社員の成長ほど実現できていないものはない。なぜだろうか。今回は主として現場のマネジャの方々に向け,この問題を解決する手立てを書いてみたい。

 新入社員は基礎教育を受けた後に現場に配属され,いよいよ実戦がスタートする。その時の彼らは,まるで巨大なカンバスを前にした画家のように,これから始まる新しい世界に大きな期待と不安を抱えている。画家はたった一人でカンバスに向かうわけではない。絵筆や絵の具,その画家に影響を与えた偉大な先人たちが,まだ未熟な画家の心強い味方になってくれる。

先輩や上司が育成のカギを握る

 ビジネスにおいて未熟な彼らを成長させるための要素は三つある。所属先の先輩や上司,担当するお客様,そして,与えられる仕事そのものである。この中では,所属先の先輩や上司,特に上司の影響力が絶大と言える。なにも知らない純真無垢な若手には上司が良くも悪くもスーパーマン/スーパーウーマンのように見え,上司からあらゆることを学ぶことになる。

 しかも1970~1980年代と違い,昨今はお客様や仕事から成長させてもらうことは難しくなっている。かつては大きなシステム開発プロジェクトが目白押しだった。開始から本稼働までには数年を要した。期間が長いので,設計から開発・運用までまんべんなく経験することができた。プロジェクトの期間中にお客様とも親しくなり,いろいろなことを教われた。

 今はそうはいかない。お客様の要望は急を要するものばかりだし,常に他社との競合にさらされている。運よく勝利を収めて受注しても,そのプロジェクトの期間は3カ月から6カ月くらいのものだ。しかも,リピートのビジネスが保証されているわけではない。

 仕事やお客様から成長させてもらいにくくなった今,残っているのは上司や先輩だけだ。上司となるマネジャの方々に申し上げたい。若手の営業やSEが成長するための最も大事な存在はあなた方なのである。