独り暮らしの高齢者に優しい町を実現するため、無線ICタグを利用した見守りシステムの導入を考えている。町ではすでに養豚管理にICタグシステムを導入しており、廃棄物処理などにも活用して、地元の静脈産業を活性化したいという。

─ICタグを利用した高齢者の見守りシステムを、町に導入する構想を持っていると聞いた。

川口 博
1947年8月秋田県小坂町生まれ。72年3月法政大学工学部卒業。小坂町で農業に従事し、84年4月小坂町議会議員。90年4月小坂町長に初当選し、現在5期目を務める。財団法人・秋田県資源技術開発機構理事、全国鉱山所在市町村協議会会長、秋田県河川治水協会会長などを兼務。

 小坂町の人口は約6700人で、そのうち65歳以上の高齢者は約2200人だ。高齢化比率は約33%に達している。さらに、独り暮らしの高齢者は315人おり、2人以上の高齢者だけで暮らす世帯も326世帯ある。

 「こうした高齢者の生活を支援する方法はないか」と考えていたときに、小坂町にある電子機器メーカーの「十和田オーディオ」と、ICタグを利用した服薬管理システムを開発した「アイ・ディ・テクニカ」(IDテクニカ)の担当者が訪ねて来た。

 IDテクニカのシステムは、医療法人・惇慧(じゅんけい)会の関連会社が運営する秋田市の介護付き有料老人ホームで実用化されており、入居者の服薬管理だけでなく、独居高齢者の安否確認などにも使えるということだった。個人的な構想の段階だが、このシステムを町に導入して、町内に住む高齢者の生活を支援したいと考えている。

─実現に向けて今後、何に取り組むか。

 まずは、システムの効果を検証する実験を町内で行うことができないかと考えている。話を持ち込んできた十和田オーディオとIDテクニカの担当者と現在、そのような話をしている。惇慧会の穂積恒理事長とは、個人的に面識がある。実験を行う際には、惇慧会の協力も受けたい。

─高齢者の見守り以外に、ICタグシステムを導入する可能性はあるか。

 すでに町内では、ICタグシステムが本格的に稼働している。町内にある養豚業者の「十和田湖高原ファーム」と豚肉加工業者の「ポークランド」が、実用化している養豚管理システムだ。生後間もない子豚の耳にICタグを付けて、1頭ごとに生産履歴を管理している。同ファームの豚肉は「桃豚」として、首都圏の生活協同組合に出荷されており、「食の安心・安全」に貢献している。現在このシステムを、他の分野に拡大できないかと考えている。

─具体的な拡大分野は。

 産業廃棄物の処理や資源リサイクルといった環境保護関連事業だ。小坂町は経済産業省から「エコタウン」の指定を受けるなど、循環型社会を実現する自治体を目指している。すでに、地元で非鉄金属精錬事業を手がける小坂精錬が、携帯電話機から金を、自動車の触媒からプラチナ(白金)を回収するといった資源リサイクルに取り組んでいる。

 さらに小坂精錬は、産業廃棄物の最終処分事業も手がけている。秋田県内の産業廃棄物のほか、県外の一般廃棄物の焼却灰も受け入れている。ICタグを適用することで、正しい廃棄物処理や資源のリサイクルを実現し、こうした地元の静脈産業の活性化も図りたいと考えている。

─高齢者の見守りも、地元産業の活性化の一環なのか。

 小坂町は金や銀、亜鉛、鉛など非鉄金属の鉱山の町として発展してきたが、1985年のプラザ合意後の円高の影響を受けて、鉱業は衰退した。その後「農業」と「観光」を、町を再生する切り札にしてきた。

 今後は町内において、医療関係の新規事業を育てたいと考えている。ICタグを用いた高齢者の見守りシステムの導入は、こうした地元の産業振興策の一環でもある。



本記事は日経RFIDテクノロジ2006年11月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです