Googleに代表されるようなネット・サービスは今年に入っても隆盛である。それはYouTubeのような動画共有や,MySpaceのようなSNS,地図,ソーシャル・ブックマークと百花繚乱(りょうらん)。写真共有,ニュース・アグリゲーション,検索,ポータルといった分野でも新サービスが続々登場している。

 大変活気づいているネット業界だが,そうしたなか,新興のサービス提供会社を支えている注目のサーバー・サービスがある。米Amazon.comが昨年8月に始めた「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」(関連記事)だ。このEC2は一言でいえば「仮想レンタル・サーバー」。一般的なレンタル・サーバーのように特定のマシンを顧客に貸し出すのではなく,Amazonが自社サービスのために構築したサーバー環境を論理サーバーとして単位(インスタンス)ごとにレンタルするというものである。まだクローズド・ベータ版ではあるが,安定しており,格安で利用できることから新興企業にうってつけのサービスと評価は高い。仮想空間サービス「Second Life」の運営会社,Linden Labが利用しているサービスとしても有名である。

「起動していなければ課金されない」

 AmazonがこのEC2で提唱しているのは,サーバー環境を電気や水道のように提供するという「ユーティリティ・コンピューティング」。この考え方は特に新しいものでもなく,米IBM,米HP,米Sun Microsystemsといった大手サーバー・ベンダーも提供しているが,AmazonがこのEC2で差異を強調しているのはその格安で単純な料金体系である。

 EC2は,使った分だけで支払うという従量制のみが適用され,固定費は一切かからない。1インスタンスの1時間当たりの利用料金は10セントで,データ転送料金は1Gバイト当たり20セント。同社のストレージ・サービス「Amazon Simple Storage Service(S3)」と組み合わせて使うようになっているが,そちらの料金も1Gバイトで月額15セントと安い。データ転送料は外部とのトラフィック間のみで発生し,ストレージ・サービスのS3とEC2のあいだの転送については課金対象外となる。

 EC2の1インスタンスのシステム環境は, 動作周波数1.7GHzのx86プロセサ,メモリーは1.75Gバイト相当。ディスク容量は160Gバイト,帯域は250Mbpsとなる。インスタンスの起動/停止は,数分単位で実行でき,停止中は課金されない。今のところインスタンスは基本的に最大20まで利用できるという。

公開するのはAmazonの堅牢なサーバー・インフラ

 EC2では,Webサーバーや,アプリケーション・サーバー,データベースなどで構成する,自分専用のマシン・イメージ「Amazon Machine Image(AMI)」を作成して,Amazon S3にアップロードし,WebサービスAPIを使って起動する。Amazonでは設定済みのAMIも多数公開しており,それらを利用することも可能となっている(EC2のリソース・ページで公開されている。例えば「ApacheがプリインストールされたFedora Core」といったものがある)。

 従来のサーバー環境といえば,例えばDellなどの大手ベンダーのサーバーを購入,あるいは複数年リースして運用するというのが一般的である。これにはサーバーそのものにかかる費用のほか,設定/管理/メンテナンスにかかる費用や通信費,ハードウエア・エンジニアの人件費,保守契約料などが必要になってくる。

 これに対しEC2はそのほとんどが不要になる。人材で必要なのはソフトウエア・エンジニアのみ。そのエンジニアによってAmazonが自社Webアプリケーション「Amazon.com」のために構築した強力でセキュアなコンピューティング資源を低コストでフレキシブルに使えるようになる。電源やネットワークが落ちたり,マシンが壊れるという心配は無用。データも常時複製され運用される。通常企業にとって考慮しなければならないのは,天災,事故,火事,停電といった不測の事態だが,そうした不安からも解放されることになる。

ハードウエアをサービスとして提供

 新しいサービスを立ち上げる新興企業にとって,トラフィック量の予測は大変難しい。多額の費用を投じてサーバー・インフラを構築したものの,サービスが不調に終わりプロジェクトはあっけなく解散,ということはよくある。またはサービスが思いのほか人気を博し,想定していた処理能力を超えてパンク。そんな話もよく聞く。EC2はスケーラブルで,変更も短時間で反映されるため,そうした無駄やトラブルから解放されるという。設定の変更やサーバーの引っ越し時にも,従来の物理サーバーとは比較にならないほどの利便性があるという。

 こうしたことを可能にしているのは,EC2がいわゆる「ネットのあちら側」で提供されるサービスだからであろう。そのあちら側にはAmazonの巨大なデータセンターがある。それを世界中の企業が,自社サーバーとして運用するようになる。Amazonはそんな構想を抱いているようである。

 Googleなどに代表されるネット・サービスは,ソフトウエアをサービスとして提供しているが,Amazonはサーバーをサービスとして提供していることになる。しかもそれはユーザーごとに割り当てる物理マシンではなく,巨大なAmazonのグリッド・コンピューティングの中で分散管理されている仮想マシン。レンタル・サーバーの未来の姿がここにあるかのように感じるのは筆者だけだろうか。