今は何でもメールで用が済んでしまう。仕事の依頼や報告のような記録に残す必要があるものだけでなく,「お礼」や「あいさつ」もメールで済ませてしまうことが多い。しかし,メールは画面からメッセージが目に飛び込んでくるだけで,削除してしまえばオシマイである。こんな時代に手紙やはがきをちょっと見直してみたい。
田中 淳子/グローバル ナレッジ ネットワーク 人材教育コンサルタント
最近は,メールで代替する企業もあるようだが,私は年1回くらいはがきで出すことを,あえてお薦めしたい。「うちの課長が先方の課長に出すようだから,俺はいいか」,「この部署の誰かが出すらしいから私はいいよね」などと手抜きをしない。自分が担当した顧客担当者や仕事で知り合った社外の様々な方に,自分の名前で年賀状を出そう。
体温を感じさせる添え書き
勤務先で支給される印刷された年賀状を使う場合,何も添え書きをせずに宛先だけを書いて送る人が多い。こういう年賀状は,ほとんど読まれないし相手の印象にも残らない。
そこで,ほんの1~2行,数十文字程度でも「書き手の体温を感じさせる」手書きの一言を書き添えたい。例えば,「システムが無事に稼働しているようでほっとしています」とか「昨年のプロジェクトではお世話になりました」などと書く。字は下手でもよい。手書きの文字は,そこに「相手」を感じることができて,人間関係を豊かなものにしてくれる(図1)。
図1●年賀状には相手の印象に残る添え書きを書こう |
ただ,せっかく直筆で添え書きをするのに,「昨年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします」としか書かないのでは,芸がない。これでは,印刷された文面とさして変わらない。では,どんなメッセージを添えればよいだろうか。
お薦めなのは,その人と一緒に仕事をして勉強になったことや気づいたことなどを,具体的かつ前向きに書く方法だ。例えば,「プロジェクトでご一緒させていただき,とても多くのことを学んでいます」とか「いつも厳しい指導をいただき,ありがとうございます」,「今年は,ぜひ○○を実現させたいと考えています」と書く。
年賀状の例ではないが,仕事で出会った人に礼状を出した時のことだ。そこに「打ち合わせの席で○○さんがおっしゃっていた××の話が印象に残っています」と具体的に書いたところ,先方から次のような返信を受け取った。「田中さんに『××の話が印象に残った』と言われ,とても嬉しかったです」と。これを見て,「具体的に伝えた方が,うんと相手の心に響くんだなあ」と改めて思ったことがある。以来,礼状にしても年賀状にしても,できるだけ「具体的」な出来事を言葉にして添えるようにしている。具体的なメッセージは,相手の胸にぐっと迫る。そうすれば,相手は自分のことを憶えてくれ,次からの仕事がさらにやりやすくなる。
会わないうちに返信する
自分は出さなかったのに,先方から年賀状が届いてしまうことがある。それが分かるのは,たいてい正月明けに始めて出社した時なので,多くの人はメールで「年賀状ありがとうございました。こちらからはメールで失礼します」とやってしまう。しかしここはやはり,きちんとはがきの年賀状を出すべきだろう。もちろん,先に述べたように「相手に関連した温かい言葉」を添え書きして送り返したい。
そもそも,メールは埋もれてしまいやすく,年始のあいさつを受け取ったかどうかも,そのうち分からなくなる。はがきの年賀状であれば,相手の手元に残るし,すぐに投函(とうかん)すれば1月中旬には相手に届く。先に相手と会ってしまわないうちに,とにかく早く出すのがポイントだ。
ちなみに,松が明けたら(松飾りを片付けた後の1月8日以降),「寒中見舞い」が正しいのだが,ビジネスの年賀状の場合は,1月中旬くらいまでは「あけましておめでとうございます」でよいだろう。
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今月のお薦め本: 手紙を書きたくなったら 木下 綾乃著 WAVE出版 1400円 私は比較的頻繁に手紙やはがきを出す。メールよりも“人のココロ”を感じられるツールだからだ。手紙はもう何年も書いたことがないという人も多いだろうが,本書のようなエッセイを読んで,たまには手紙を出してみてはどうだろう。例えば,出張先でお世話になった方へはがきを1枚出してみる。きっと相手は喜んでくれるだろう。 |
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