新入社員でもないのに「いまさらマナーなんて」と思う読者も多いかもしれない。しかし,IT業界以外のビジネスパーソンから「ITエンジニアって,一般的にマナーレベルが低いですよね」と言われることがしばしばある。そういうイメージを一日も早く払拭し,「私たちもれっきとしたビジネスパーソンである」と堂々と宣言するためにも,今一度「ビジネスマナー」を振り返ろう。
田中 淳子/グローバル ナレッジ ネットワーク 人材教育コンサルタント
ITエンジニアの仕事は,広い意味でやはり「サービス業」だ。サービスの相手は顧客だけとは限らない。自分の仕事や作業の後工程に従事する人に対しても「サービスする」という気持ちが必要になる。
ITエンジニアには,この「サービス業である」という自覚が高い人と乏しい人がいる。自覚に乏しい人が,“お行儀”が悪い態度を取ったり,相手に対する“サービスのココロ”が欠如した振る舞いをしてしまったりする。そうなると,信頼関係を損ない,「この人(会社)と仕事をして大丈夫だろうか」と,相手に不信感が湧いてくる。特に,中堅以上になると,誰もマナーについて注意などしてくれなくなる。にもかかわらず,後輩に与える影響は大きい。自分や会社の評判を下げないためにも,今一度マナーを見直してほしい。
この連載では,ビジネスマナーをお行儀やサービスのココロと絡めながら,気楽に考え,学んでいただきたいと思っている。私が体験したこと,これまでに仕事で出会ったITエンジニアから聞いたことなどを織り交ぜながら「なんとなくおかしい」,「何がおかしいのか」,「では,どうすればよいのか」を説明していきたい。
目に余るケイタイ問題
初回は,携帯電話を取り上げる。携帯に関するお行儀の悪さといったら,どうだろう?
ここ数年で私が体験したり,色々なITエンジニアから聞いたりした,携帯に関する良くないお行儀について紹介しよう(図1)。
図1●携帯電話のマナー違反 [画像のクリックで拡大表示] |
ある会場で,研修を行ったときのこと。そこは研修専門の会場で,教室ごとに様々な企業主催のプログラムが同時に走っており,休憩用のロビーは,参加者全体で共通だった。休み時間にそのロビーで携帯で会話している女性がいた。彼女は,自分の部下と思われる相手に対して,「提案書と見積もりの書き方」,「値引きの表現方法」など具体的なことを,ロビー中に響くような大声で話していた。周りには,色々な企業の人がいる場所でだ。
社外にいると携帯でメンバーと会話せざるを得ないという事情は分かるが,公衆の場所で仕事の中身が分かるほどの大声で会話するのはいかがなものか。会場の外に出る,周りに誰もいない場所を選ぶなどの配慮をすればよいだけの話だ。
これはあるエンジニアから聞いた話。客先に半常駐状態にある後輩が,ある時,顧客先のコンセントで自分の携帯を充電していたそうだ。顧客担当者がそれに目を留め,「何をしているのか? 誰かに断ったのか?」と尋ねたところ,「いいえ。充電くらいいいかと思って」と返事してしまったらしい。激怒した顧客担当者は,「他社の電気を勝手に使っていいわけないだろう?」と大問題に発展し,その後輩は「始末書」を書く羽目になったのだという。この場合,「会社と連絡を取るため,携帯を少しだけ充電させていただいてもいいですかか?」と一言打診すれば,きっと快く許可してくれただろう。要はちょっとした一言が足りないために起こったトラブルなのだ。
ある時私を訪ねてきたITエンジニアの話。訪問してきたエンジニアは携帯を切っておらず,話している最中,何度も携帯が鳴る。それだけではなく,必ず携帯に出る。
それも,応接室から出て行くこともせず,私の目の前で会話する。1時間の間に3回もそれが繰り返された。当然,会話は何度も途切れる。私は「この人は電話の向こうの相手が大切で,私の方は放っておいてもいいと思っているのだな」と相手のサービスのココロのレベルの低さを感じてしまった。そのときの会話は「何か一緒に仕事をしましょう」という目的だったようだが,その後,お付き合いが継続することはなかった。
この話を別のITエンジニアにふと漏らしたところ,「複数のプロジェクトなんか抱えていると電話がかかってくるのはしょうがないから,俺も会議中だろうと電話には出る」と言われた。それを聞いていたその人の上司はすかさず,「目の前の人より電話の相手を優先するのは失礼だ。急ぎといったって,たかが1時間程度待たせることはできるだろう。大体,自分がいなくても仕事が回るように他のメンバーがサポートできる態勢を作っておくのも忙しい人間の仕事だよ」とコメントしていた。私も全くその通りだと思う。携帯は便利なツールではあるが,“諸刃の剣”だ。使い方については,自分が気を付けるだけでなく,チームのメンバーにも注意を促したいものである。
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