写真1●ランシステムの開発現場
写真1●ランシステムの開発現場

 FPTソフトウェアを筆頭に、ベトナムのソフト/情報サービス会社数は現在720社。将来のFPTを目標に、技術者が会社を興すケースが増えている。主役は、日本や豪州、欧米などの大学・大学院への留学経験者を持つ若者だ。

 理科系の留学生は、現地でITと外国語を身に付けるだけでなく、アルバイトや社員としてプログラミングなどの仕事に従事することが多い。その経験を生かし、留学先の国からシステム開発を請け負う会社を設立するパターンが増えているという。

派遣プログラマから社長に

 05年設立のランシステムがその代表例(写真1)。ゴ・バン・タウ代表取締役(30歳)は、留学を契機に日本に9年間滞在した経験の持ち主だ。「日本の印象は、なんといっても桜がきれいなこと。ここ数年は開花が遅れ気味ですね」と、日本の文化や習慣にも精通している。

 タウ氏が日本を初めて訪れたのは1996年のこと。ハノイ工科大1年生のときに、試験を受け日本の国費留学生に合格した。北海道の函館工業高等専門学校から、電気通信大学、同大学院に進み情報工学を学んだ。その傍ら、アルバイトで日本のソフト開発会社にも勤めた。04年春に大学院を卒業してからも日本にとどまり、時給千数百円の派遣技術者として働いた。

 この間、買い物の大半は100円ショップで済ませるなどで、年間100万円を貯金した。「コンビニエンス・ストアは値段が高いのでほとんど利用しなかった」(タウ氏)という。留学生仲間数人が、それぞれの貯金を持ち寄って、05年4月に、資本金500万円で設立したのが、ランシステムだ。

 同社がこれまでに手がけた案件は、ネット企業のECサイトやiモード向け携帯サイトの構築、保険のオンライン見積もりシステムなど。仕事ぶりを評価した顧客が別な顧客を紹介してくれることもあり、事業は順調に拡大。売上高は初年度から2500万円を確保し、06年は4000万円に増えた。東京・神田に日本事務所も置く。2010年にも、技術者数を現在の45人から200人に増やし、売上高2億円を目指す。

パソコンの後ろに仮眠スペース

写真2●開発拠点にある仮眠スペース。徹夜で仕事に当たることも少なくない
写真2●開発拠点にある仮眠スペース。徹夜で仕事に当たることも少なくない

 ランシステムが順調に事業を拡大できるのは、日本に留学経験のある同社幹部が、日本におけるシステム開発の進め方や品質・納期に関する考え方を理解しているからだ。タウ氏は、「納期と品質を守るためには、残業もいとわない」と断言する。同社の開発拠点の一角、開発用パソコンの裏には、仮眠コーナーがある(写真2)。パーティションで区切り薄い布団を敷いただけのスペースだが、ここで仮眠を取りながら技術者たちは昼夜開発を続けている。

 日本政府は1990年以降、タウ氏のようなベトナムからの国費留学生を受け入れている。1期生は2人だけだったが、現在は毎年20人前後までに増えている。携帯電話先進国のイメージが強いため、無線や移動体通信を研究テーマに掲げる留学生が少なくない。「ベトナムでは日本は留学先としても人気が高い」(アストミルコープの武田代表取締役)という。その留学生たちが第2・第3のランシステムを創業する可能性は高い。