日経コンピュータ2006年10月30日号の記事をそのまま掲載しています。執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっていますが、BCP策定を考える企業にとって有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。

 「2010年代、都内ではデータセンターの需要に対して30万m2足りなくなる可能性がある」――。野村総合研究所(NRI)は今年春に実施した調査の結果から、こうした結論を導いた。同調査によれば、首都圏(1都3県)のデータセンターの供給面積は、2005年は60万m2だったのが、2010年には86万m2まで増える見込みである。それでも、利用率は2005年の45%から2010年には66%まで上がり、特に人気の東京都千代田区大手町を中心とした都内では30万m2足りなくなりそうだという。

ホスティングからITサービスまで

 ひとくちにデータセンターといっても、その利用形態で大きく三つに分けられる。ユーザー企業が保有するサーバーをデータセンターに設置して、そこで運用・管理を行う「ハウジング」、データセンター事業者が用意したハードウエア/ソフトウエアをユーザー企業が利用する「ホスティング」、システム・インテグレーションから引き続いて運用・管理を委託する「ITサービス」だ。IDCが今年8月に発表した「国内通信事業者のインターネット・データセンター市場」調査を見ると、三つのいずれの利用形態でも需要が伸びていることが分かる(図1)。

図1●データセンターの市場規模と首都圏における利用率(2006年以降は予想)
図1●データセンターの市場規模と首都圏における利用率(2006年以降は予想)

 実際データセンター事業者は、「都内を中心に、首都圏のデータセンターの稼働率は高い」と口をそろえる。都内で最大のデータセンターを構えるアット東京の神山佳樹常務取締役は、「2004年までは1フロアが埋まるのに3年かかっていたが、今は1年弱で埋まる」と明かす。

 「1000m2以上を利用する案件も、年に数件ある」(富士通 サービスビジネス本部の伊井哲也部長)、「外資系の証券や銀行が2000~3000m2の利用を打診してきている」(NTT東日本 ビジネスユーザ事業推進本部の近藤俊一担当部長)といった声もある。

 あるシステム・インテグレータは、「システムを構築した後に運用を始めようと思っても、自社のデータセンターに空きがなく、他社のデータセンターを借りるケースが出てきている」と告白する。「いくつかの事業者は、当社の顧客」(アット東京の神山常務取締役)など、「2000年のデータセンター氷河期と呼ばれていた時代には考えられない状況」(ソフトバンクIDCの三浦剛志企画本部長 兼 技術本部長)だ。

 では、地方のデータセンターに対する需要はどうなのか。全国にデータセンターを持つ富士通の伊井部長によれば、「さほど埋まっていない」。

 首都圏、特に東京都内に人気が集中する理由は、二つある。一つは、「いざとなったときに駆けつけられること」。NTT東日本が都内に構えているデータセンターを選んだ第一興商は、「障害時にすぐに対応できるから」(営業統括部Web事業部の石本裕之部長)と理由を語る。シーエー・モバイルが本社と同じ区にあるデータセンターを選んだのも「30分以内に駆けつけられるため」(斉藤サブマネージャー)だ。

 二つ目の理由は、「IX(インターネット・エクスチェンジ)に近いこと」。IXとは、複数のインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)や学術ネットワークを相互に接続するポイントである。日本全国に31カ所あるIXのうち、21カ所が都内にある。IXに近ければ近いほど、さまざまなISPと高速で通信できる。

高速回線でロケーション・フリーへ

 このような状況に事業者側は相次ぎ増床計画を発表している。本誌の調査では、来年までに東京23区内だけで3万m2強、近郊を含めると6万~7万m2は増える見込みだ(表1)。

表1●首都圏の主なデータセンター(DC)の増床面積
表1●首都圏の主なデータセンター(DC)の増床面積
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 アット東京は、東京都江東区にあるデータセンターの7階を今年中に、8~9階のサービスを来年から順次開始する。NTT東日本は来年4月までに、東京都豊島区にある局舎に約5000m2のデータセンターを新設する。自社の設備を移動させてまで場所を確保している状態で、ほかの局舎もデータセンターに応用できないか検討中だ。

 今年3月に増床したばかりのKVHは、年内にさらに約6000m2を増床する。同社のデータセンターを利用するインタートレードの丸山 一取締役副社長 兼 社長室長は「来年は今年より借りるラック数が増えることは確実」という。KVHの売上高は、「2~3年後には専用線やVPN(仮想通信網)といった通信サービス事業を抜いて、データセンター事業がトップになる見込み」(田口勉マーケティング本部長)である。

 データセンター専業のさくらインターネットは、6月に新宿区に新しいデータセンターを新設したのに続き、9月には渋谷区に新センターを開設した。両センターの合計面積は4030m2になる。同じく専業のビットアイルは、8月に新設した品川区に11月、もう一つの新センターを作る。合わせると8000m2を超える。

 都内では新たにデータセンター用地を確保しにくいため、各社は神奈川県や埼玉県、千葉県でも相次ぎ増床する。その中で、NTTコミュニケーションズが昨年12月に開始した「首都圏マルチデータセンター」サービスは特徴的だ。大手町などのIXと郊外のデータセンターを高速専用線で結び、「IXの近くにあるのと同等の通信速度を提供する」(ITマネジメントサービス事業部アウトソーシングプラットフォーム部の荒井宏幸DCプラットフォーム部門長)。

疑問1は…本当 増床計画は盛んだが、首都圏の不足は続く