長倉氏写真 筆者紹介 長倉 勉(ながくら・つとむ)
富士通総研公共コンサルティング事業部シニアマネジングコンサルタント/ASPIC ジャパン執行役員

富士通総研では、地方自治体における電子自治体・情報化計画策定、基幹系システム等再構築における最適化計画立案、共同利用・アウトソーシング基本計画立案等を担当。ASPICジャパンでは「災害時ICT基盤研究会」のリーダーとして、研究会の取りまとめめを担当。著書に『電子自治体アウトソーシング実践の手引き』(共著)。

 今回は、これまでの3回の連載を総括し、災害ICT基盤構築において今後解決すべき課題を整理してみたい。

■今後解決すべき課題について

1.被災地における被災者の基本情報の取得方法について

 混乱した被災地において被災者の基本情報をどのように取得するか、大きな問題である。首都圏の避難場所には数千人単位での避難者が溢れかえると予想される。法令等により現状では困難である部分もあるが整理検討する。

 基本情報の取得には、以下表1のような観点が必要であり、効率的に入力ができるIT技術の採用など積極的に行う必要がある。

■表1 被災者の基本情報の取得方法

迅速性・簡易性 情報の転用 普及度・網羅性 地域内住民の識別 高齢者対応
入力表に記入(アナログ) × ×電子化が必要 ◎誰でも対応可能 ○記入データより、照合が伴う ◎聞き取りによる対応
入力表に記入後OCR読込 △記入と確認に時間を要する △スキャンの認識レベルに左右される
デジタルペン ◎医療現場他緊急時の対応が可能 ◎データの電子化により対応可能 △普及低い(今後の配布で対応) ◎入力する仕組みにより対応可能 ◎手書きの電子化が可能
住基カード ◎IC化により防災対応情報がある場合 ○電子化された登録情報について転用可能 △発行率低い △利用率低い
携帯電話 ○保有者のみ ○保有情報から識別 △利用率低い
パスポート △発行率低い △発行率低い
保険証 ○普及しているが個人識別が必要 △個人単位の識別が必要 ◎発行率高い
(年金手帳他)
免許証 ○取得者のみ ○保有情報から識別 △取得者のみ
図書館・公共施設カード △発行者のみ △発行者のみ

◎ 非常に適している ○ 適している △ 普通 × 適さない

 普及率の高い端末を基本と、現地での情報の入力は、電子化迅速化に優れた端末の導入で対応し、これら双方のメリットの高い入力方法を組み合わせた運用を行う。

2.連携すべき基本情報のフォーマットについて

 次に、連携すべき基本情報のフォーマットの検討であるが、各システムで情報共有する基本情報は、システム間連携が円滑に実施できるよう項目(ファイルレイアウト)の統一、MXLタグの統一などをし、共通化させることで、相互の連携がしやすい標準化を進めることが必要となる。

 例えば安否条例省令では、基本項目として必要な情報は主に氏名、フリガナ、生年月日、住所、避難住民の該当の有無、国籍、負傷・疾病の状況、居所、連絡先、情報公開の意思確認、備考のような項目を挙げている。これらは医療用トリアージ、避難所管理のシステムなど被災時に使用されるシステムと項目等を統一すべきだろう。

■表2 基本情報のフォーマット比較
安否条例省令 医療用トリアージ 避難所管理
氏名(フリガナ) 氏名 氏名
生年月日 年齢 生年月日
住所 住所 住所
避難住民の該当の有無
国籍 国籍
負傷の状況 トリアージ状況 負傷の状況
居所
連絡先 電話番号 電話番号
情報公開の意思確認 情報公開の意思確認
備考 性別 性別他

3.効率的な訓練メニューの必要性

■日常的な訓練の必要

 高度なシステムの活用を効率的に実施するには、日常的な利用と訓練が必要であり、これら訓練を行うことで、災害など混乱期においても、円滑な運用が可能となる。

 日常的な訓練で重要なのは、昼夜の場面を想定すること、役割を変えるなど様々な場面を想定すること、どのような担当になっても対応可能となるよう役割分担ごとの機能確認を行うなどロールプレイング活動の効果を高める必要情報・活動指標などを設定して行うことである。

 また、訓練に際しては、例えば、地域内の被災情報の収集に要する時間を測定する、避難所において情報を入力し状況報告する際の時間を計測するなどの数値目標など、一般的に対応に要する目標値を基準とし、地域における数値目標を把握し、将来的にも訓練活動に継続して活用していくことが必要である。さらに、訓練後の活動の採点や、取り組み内容が評価でき、改善すべき事項のチェック項目など、次回の活動で改善活動につなげることができる取り組みとしてPDCAサイクルにより体系化できていることが必要である。

■図1 訓練の流れ
訓練の流れ

 現在地方公共団体と地域住民が担う、情報共有連絡の仕方について、具体的な訓練を可能とするメニューが存在していない。そこで、これから取り組む事前の訓練では、以下の観点に留意し取り組みことが望ましい。

  • 実際に災害が発生した場合を想定し、地域で生活する地域住民により災害時と同様の活動が出来る訓練であること
  • 緊急時にあわてないためにも、端末やシステムの操作など、定期的な訓練を行い日頃から習熟しているようにしておくこと
  • 日常的な稼働の点検を兼ねていること
  • 取り組み内容の評価・見直しが行えること

■災害関連システムに対する自治体の取り組みについての整理

 最後に、災害関連システムに対する自治体の取り組みについて整理したのが下の表3である。災害ICT基盤構築の際にご参考にしていただければ幸いである。。

■表3 災害関連システムに関する自治体の取り組み
災害関連システムに関する自治体の取り組み

1 自治体として最初に取り組むべき対象を絞り込む
  • 地域に対し必要不可欠なサービス・求められているサービスに対し、導入のための優先順位付けを行う(システムマッピングのグループ化を活用。以下は参考順位とする)
  • まず優先されるべきは、生命に係る情報収集・共有・連携として「安否情報の収集」「安否情報の伝達と連携」「災害時緊急医療支援」
  • また、地域内の情報を早期に正確に共有する「災害情報の収集・提供」「避難所運営」
  • 災害時の被害拡大を防止する事前の予防活動として、「防災情報提供」
  • 被災地での支援体制を早期に確立するために「職員召集・安否確認・緊急連絡」が必要
  • 社会基盤の早期復旧のため地域外との連携として「ボランティア活動支援」等がある
2 周辺自治体・消防・都道府県との連携調整を図る
  • 上記優先順位の中ですでに国や都道府県が実施しているなど範囲を限定し、それぞれが担当する役割分担を決める(J-ALERTなど進展が期待できる仕組みの活用)。
  • またその後、地域の団体や関係機関と安価で効率的な運用を行うため、共同運用の可否について検討を行う。
3 費用積算
  • 該当する事業者から見積金額等の情報を収集し費用試算を行う。
4 予算化
  • 必要な費用を協議の上、稼働のための予算化を行う。
5 導入・テスト・稼働・訓練の実施
  • 導入に際しては、運用を担う機関など維持体制を確立し、着実な稼働と継続的な運用を目指す。また、災害発生時に円滑な利用が可能となるよう、訓練などを通じて日常的に利用に慣れる。

 以上、4回にわたり、ASPICジャパンの災害時ICT基盤研究会の取り組み成果について紹介をしてきました。今後はこの成果をもとに、課題に対する積極的な取り組み及び災害ICT基盤の取り組み支援を実施していきたいと考えます。自治体の皆様には、取り組みを強化すべき対象や活用を図るべき対応方法に関する考察・整理にお役立ていただきたいと考えます。また、今後ASPICでは本研究会の成果について各地シンポジウムを開催する予定です(スケジュールはASPICジャパンのWebサイト等でお知らせします)。ご興味のある方は積極的なご参加をよろしくお願いします。