昨年9月に開催された前回の東京ガールズコレクションの様子(写真提供:Tokyo Girls Collection 2006 AUTUMN/WINTER)
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 携帯電話を利用した女性向けのポータルサイト運営や衣料品の通販サービスを手掛けるゼイヴェル(東京・港区)は今、3月3日に横浜アリーナで開催するファッションイベント「東京ガールズコレクション」の準備に追われている。

 今回で4回目を迎える東京ガールズコレクションの最大の特徴は、蛯原友里や押切もえ、土屋アンナといった人気モデルが当日着た服を、その場にいながらにして携帯電話の通販サイトから購入できることだ。ファッションショーと携帯電話を組み合わせた「クリック&イベント」とでも呼ぶべき、新しいEC(電子商取引)の形態として注目されている。

 会場に詰め掛ける約2万2000人の若い女性たちは、ほぼ全員がいつでも携帯電話を持ち歩いており、当日はその携帯電話が会場内での「注文端末」になる。昨年9月に開催した第3回の東京ガールズコレクションでは、イベント当日から24時間以内に2300万円の売り上げがあったが、今回も同程度の売り上げが想定される。

 とはいえ、モバイル通販事業を統括するゼイヴェルの椋林裕貴プロデューサーは「当日の売り上げを伸ばすことばかりが注目されているが、本当の狙いはほかにある」と明かす。一番の目的を一言でいえば、東京ガールズコレクションの開催は「当社が運営するモバイル通販の『信用力』の向上が狙い」(椋林プロデューサー)である。

 椋林プロデューサーは「モバイル通販に積極的に見える若い女性たちであっても、まだまだ携帯電話で衣料品を買うことに抵抗を感じている人が大勢いる。当社が運営する通販サイトなら、安心して買い物ができるということを会場に来て体験していただきたい」という。モバイル通販に対する不安を一掃してもらうのに最も効果的なのは、「自分の目の前で同年代の女性たちがモバイル通販をしている姿を見てもらうことだ」。

 イベント当日は、おしゃれなファッションに身を包んだ同年代の若い女性たちが会場を埋め尽くすことになる。既に携帯電話での買い物に慣れている人なら、迷わずその場で「エビちゃん」や「もえちゃん」が着た服の注文を入れていくだろう。それを目の当たりにした周りの女性たちが「これなら私たちもモバイル通販にチャレンジできる」と思ってくれれば、しめたもの。実は東京ガールズコレクションの会場で、初めて衣料品のモバイル通販を体験する人も大勢いるのが実情なのだ。

 「顧客は携帯電話で衣料品を購入しても大丈夫だという『根拠』を求めている。東京ガールズコレクションは、その根拠を提供する場だと考えている。それが当社にとっての『接客』といえる」(椋林プロデューサー)

 つまり、ゼイヴェルが想定する「クリック&イベント」戦略は、6時間にも及ぶあこがれのモデルたちのステージを通して「接客」しながら、その場で携帯電話で買い物をする楽しさと安心感を経験してもらい、そして自宅に帰ってからも「安心」してモバイル通販を続けていってもらう、というものだ。


アパレルメーカーからの信頼を勝ち取る

 もう1つ、東京ガールズコレクションには、ゼイヴェルにとって欠かせない重要な要素が含まれている。同社の取引先であるアパレルメーカーの開拓や結びつきの向上だ。1999年11月に設立されたゼイヴェルの歴史は、取引先開拓の歴史でもある。当時はモバイル通販が動き出したばかりで、携帯電話の画面もモノクロ。「携帯電話で衣料品が売れるわけがない」というのが、大半のメーカーの共通見解だった。おまけにゼイヴェルの知名度は低く、アパレルメーカーとの取引開始は苦労の連続だった。

 だが、過去3回の東京ガールズコレクションの成功が状況を一変させた。今では、新しいファッションブランドのお披露目の場として東京ガールズコレクションを指名してくるアパレルメーカーが現れたり、当日会場に集まるターゲットの若い女性たちに自社のブランドを知ってほしいと、出店を加速しているアパレルメーカーが積極的にイベントに参加するようになってきた。

 大手百貨店の出身である椋林プロデューサーは「モバイル通販で最後の決め手になるのは、企業の信用力だ。対面販売ではないモバイル通販でも顧客が安心して買い物ができ、メーカーが当社を信頼して商品を提供してくれる環境を作れなければビジネスは成功しない。それはモバイル通販でも、リアルの店舗でも全く同じことだ」。

 東京ガールズコレクションは3月26日には中国・北京でも開催されることが決定している。中国市場への進出を狙う日本のアパレルメーカーにとっては、自社ブランドを中国の若い女性たちに知ってもらう格好の場となるはずだ。