ベトナムでIT産業を管轄する郵電省によれば、2005年度(12月期)におけるベトナムのソフト/情報サービス産業規模は300億円。絶対額はインドの1%強、中国の0.5%前後、日本の0.3%にも満たないが、前年比47%増という勢いがある()。

表●ベトナムの基本情報とIT産業の状況
人口 8312万人 *1
30歳以下の割合 6割強
GDP(国民一人あたり) 7万6800円 *1
経済成長率 8.4% *1
ソフト/情報サービス産業規模 2005年実績
(前年比)
300億円(47%増) *2
2010年目標
(平均伸び率)
1876億円(44.8%増) *2
ソフト技術者数 3万人 *2
ソフト/情報サービス会社数 720社 *2
IT系学部のある大学数 160以上 *2*3
IT系大卒者数 9000人 *2*4
技術者の平均年収 新卒 25万円 *2
初級 72万円 *2
中級 100万8000円 *2
上級 158万4000円 *2
プログラマの人月単価 15万~25万円
日本語能力試験(1級)受験者数 375人 *5
 1ドル120円で計算、特に記述のない数字は2005年のデータ
 *1 出所:ジェトロ
 *2 出所:ベトナム郵電省
 *3 出所:これ以外に、企業のIT訓練校などが70前後ある
 *4 出所:これ以外に、IT訓練校の卒業生が1万2000人いる
 *5 出所:日本国際教育支援協会

 300億円のうち海外輸出が28%を占める。05年度における最大の輸出先は米国。日本は第2位だ。だが、ベトナム郵電省のIT産業担当シニア政策作成者グエン・チョン・ドゥオン氏は、「3年以内には日本が最大の輸出国になる」と話す。

 その背景には、日本とベトナムが産官共同で戦略的に関係強化を図っていることがある。ベトナムのグェン・タン・ズン首相は、06年6月の就任後初の海外公式訪問先として日本を選び、同年10月に来日した。1カ月後の11月には、日本の安倍晋三首相がベトナムを訪問。その際には、日本経団連が、御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)を団長に134人の訪問団を組んで同行した。今年1月にベトナムがWTO(世界貿易機関)に正式加盟したことなども追い風だ。ベトナムと日本の距離は急速に縮まっているといえる。

 ベトナムで大学のIT系学部を卒業する学生数は年間9000人(郵電省調べ)。これらの学生のほとんどが、ソフト/情報サービス業に従事している。同業界の技術者数は現在3万人だが、市場規模の拡大に併せて急増している。

中国一極集中のリスク回避で注目集まる

写真●ベトナム郵電省のIT産業担当シニア政策作成者グエン・チョン・ドゥオン氏
写真●ベトナム郵電省のIT産業担当シニア政策作成者グエン・チョン・ドゥオン氏

 ベトナムの日本向けプログラマの人月単価は15万~25万円。インドの半分、中国の3分の2だ。だが、ベトナムのソフト開発会社と日本企業のマッチング事業を展開するアストミルコープの武田雄已彦代表取締役は、「コストの安さだけではない。ベトナム企業は、日本をソフト開発ビジネスの最大の顧客だとみなしている。ここが日本企業にとって大きなメリットになる」と強調する。

 ベトナムへのオフショア開発を手掛け始めたTISの岡本晋社長は、「オフショア開発が中国に一極集中するリスクを削減する意味でも、急成長するベトナムをうまく活用していきたい」と期待する。NECと日本ユニシスは昨年6月にグループ会社を通じ現地法人を設立。NTTデータも、オフショア発注量(2006年で40億円弱)の9割以上が中国に集中していることから、中国一極集中のリスク削減を目指し、ベトナムへの発注を拡大させる。

 オフショア開発の委託先としては、先進技術に強く実績が豊富なインド、日本から物理的にも近い中国が有名だ。だが、その間にあるベトナムが、両国の代替策あるいは補完策として急浮上している。