ユーザビリティの世界で超有名人であるヤコブ・ニールセン博士が書いている「Alert Box」というコラムがあります。「usability.gr.jp」というサイトで日本語にも翻訳されているので,読んだことがある方も多いんじゃないでしょうか。かなり昔から連載されており,様々な示唆に富むコラムを読むことができます。

 で,そのAlert Boxで昨年12月18日に日本語訳が公開されたコラム「映画の中のユーザビリティ -- 間違いトップ 10」で,映画でよく見かけるコンピュータ・インタフェースについてツッコミを入れています。なかなか面白かったし,自分も以前から思っていたことだったので,これまでの連載とは少し趣向が異なりますが,ちょっと取り上げてみたいと思います。

 映画で「超すごいハッカー」とか「コンピュータのエキスパート」といった人が出てきてコンピュータをバリバリ使いこなしたり,大企業や軍部なんかのすごいコンピュータが出てきて,様々な情報がなんだかよくわからないけどすごそうな感じで画面に表示されたり,というのはよく見かけます。で,エンジニアをやっていると,そういった画面や操作に対して違和感を感じることがよくあるというか,現実をよく知っているだけに,ありえない感じをすぐに持ってしまうことがあるわけです。筆者は知り合いの編集者と,「映画に出てくるコンピュータの描写に突っ込みを入れる」というネタで連載ができないか,なんて話をしたこともあって,以前からすごく気になってました。

 ニールセン博士のコラムでも,リンクという形で紹介されていますが,筆者も一番気になっていて,この手の話をする際にいつも引き合いに出してしまうのが「インデペンデンス・デイ」という映画です。「アメリカ版ゴジラ」とか「デイ・アフター・トゥモロー」とかの監督で,アメリカ万歳的な映画を撮ることで有名なドイツ人監督ローランド・エメリッヒ氏による,「アメリカの独立記念日を世界の独立記念日にしてしまおう」という大胆かつ自由な発想の映画です。テレビでも放映されていましたし,そもそも結構話題になったので,観たことがある方も多いと思います。

 この映画では,エイリアンが巨大な宇宙船で地球に攻めてきて,それを撃退するまでが描かれます。地球に攻めてきたエイリアンをやっつけるのは,地球の病原体でもなく,オールディーズの音楽でもなくて,コンピュータ・ウイルスです。(見た目が)理系の俳優ジェフ・ゴールドブラムが演じるデイヴィットというエンジニアが,エイリアンの宇宙船のコンピュータにウイルスを仕込んで防御シールドを停止させることを思いつき,宇宙船の中に忍び込みます。そこで,自分のコンピュータをエイリアンの宇宙船のコンピュータに接続し,その場でウイルスを作成して,それを転送して見事感染させるのに成功します。

 ウイルスのコードを書いているシーンでは,明らかに英語をベースとした何らかのプログラム言語で書いています(どういう言語だったかはよく覚えていないのですが)。そして,おそらくそれをどうにかしてエイリアンの宇宙船のマシンで使われている命令セットにコンパイルして送り込んでいるっぽいのですが,でも「そんなコンパイラなんで持っているんだよ!」と言いたくなるわけです。ニールセン博士のコラムではさらに,接続に使ったのはUSBなの?RS-232なの?とか,そもそもエイリアンの宇宙船で使われているOSの防御シールドを停止させるAPIをどうやって知ったの?とか,そもそもエイリアンの使っているコンピュータって二進数がベースになってるの?なんて数多くのツッコミをしています。

 映画の中では,50年前に見つかった同じエイリアンの宇宙船がエリア51に保管されていて,その研究は行われていたことになっています。そこから得た知識が使われた,という説明はできるのかもしれないなあ,なんてことを思いながら観ていた記憶もありますが,それにしても,コンピュータの世界で50年って長すぎるなあ,とも思ったことを覚えています。

 こうしたことって別にハリウッド映画だけではありません。例えば,「恋におちたら~僕の成功の秘密~」という「IT企業」を舞台にした日本のテレビドラマがありました。そこでその会社が提供するサービスがトラブルに見舞われてそれを立て直す,というシーンがあったようなのですが,そこもなかなか変だったみたいです。ブログ「にぽたん研究所」において,「ドラマに見る「緊急対応」に対する一般的イメージ」のなかで,ちょっと変なポイントがいろいろ述べられています。