このあたりで、これまでの話を一旦まとめてみましょう。

 Webがコミュニケーションの中心メディアとして定着し、特に企業サイトが購買時点に大きな影響を持つことが明確になってきた現在では、スペックや機能を訴求するだけでなく、もっと企業自身が持つアドバンテージ(コアバリュー)を訴求すべきではないか、というのが連載第2回と第3回で松下電器の次田さんに語っていただいたことでした。

「企業サイトに商品やサービスの情報を掲載するのは当然のことですが、それだけで良いの?」

と、いうことですね。

スペックは平準化する

 世の中で、あなたの会社しかない商品やサービスを持っている企業があれば、それはたいへん幸せなことだと思いますが、残念ながらたいていの企業には競合する相手がいます。

 したがって、競合企業のサイトをみれば当然のように自社のサイトと同じような商品、サービスの情報が掲載されており、その情報の多くは商品のデザインであったり、スペックや価格などであることが一般的です。 もちろん、どの企業も自社製品が優れていることをアピールしたいので、サイトでの表現にも工夫を凝らしていますが、基本的には商品のスペックや価格だけの情報である場合がほとんどです。

 デジタル機器を例に取れば分かりやすいと思いますが、スペックや機能、価格などは、発売後少しの間は優位性を保っていても、すぐに追いつかれて、類似の商品が並んでしまいます。 つまり、スペックや価格はすぐに平準化してしまい、長い間優位性が保てないのが現状といって差し支えないでしょう。

ですから、企業サイトで平準化するスペックだけを伝えることの無意味さは理解していただけると思います。それでは何を伝えたらいいのか、という課題への回答が「企業のコアバリュー」いうわけです。

 メーカーの人たちと話をしていても、量販店で安売りされたり、価格.comなどのサイトで価格だけの比較で買われることに抵抗を感じる方々が少なくないのですが、実は自社のサイトに比較が容易なスペックや価格、機能だけしか記載していないという矛盾には気がついていない場合が多いようです。

ユーザーにとってのコアバリュー

 ユーザーにとって、その企業の存在価値というのは商品やサービスを提供してくれるからにほかならないことは確かで、その優位性を伝えることが絶対に必要な要素であることは間違いありません。しかし、その優位性がスペックや機能だけであれば上記のようにそれはすぐに平準化してしまい、退屈な情報になってしまいます。

 そこで、その商品やサービスを生み出した企業の背景や歴史などが「コアバリュー」なのでしょう。「あ、そういうコンテンツなら弊社のサイトに載っています!」ということで、企業の歴史や創業者の功績などのコンテンツのURLを教えていただけることが多いのですが、問題はそれがユーザーにとってのコアバリューに翻訳されているかどうかではないでしょうか。

 入社式で見せられる企業の歴史のビデオや創業者の記録フィルムなどを企業サイトのユーザーに見てもらおうと思っても、それほど関心を引くとは思えませんが、それが、現在の生活にどのように関係しているかであれば見てもらえるかもしれません。要は「発信したい内容」をいかに「受信したい内容」に昇華して見せられるかではないでしょうか。

 まさに、工夫のしどころですね。

縦割り組織に横串を通そう

 それでは、どうすれば良いのか?ですが、一つのヒントは、縦割り組織をいかに横断できるかでしょう。企業サイトの担当者の方と話をしていて、「こういうコンテンツ」をつくったらどうでしょう?と提案すると「その部署に聞いてみます」という返事が返ってきて、しばらくすると「担当部署はコンテンツを作る気はないみたいです」との反応があることがよくあります。

 企業サイトの担当部署は往々にして調整部門であることが多く、コンテンツになる内容を自ら保持しているわけではないのでやむを得ない場合もあるとは思いますが、企業の組織がどうなっているかというようなことはユーザーにはまったく関係のないことで、その組織単位で区切られている情報も企業の業務の都合で決められていることです。

 たとえば、ある企業のコアバリューについて考えたとき、それらはその企業の複数の部門にまたがっている事の方が多いでしょうから、それらをコンテンツとしてまとめるときには複数の部門の協力が必要になります。つまり、コアバリューを発信していくためには部門の壁に風穴を開ける必要があるわけです。これは、たいへん大きなエネルギーを要しますが、ぜひ実現して欲しいことです。

ネットならではの表現でユーザーに感動を

 一方でサイトでは、スペックや価格しか訴求していないような企業でも、テレビ広告などになると俄然イメージによる差別化に熱心になり、有名タレントなどを起用して、イメージ作戦を繰り広げます。イメージの力とその持続力というものは一度高いイメージを築きあげると、そう簡単には追いつけず、平準化しにくいということを本能的に感じているのでしょうね。

 それでは、ユーザーの感情を動かすことはテレビ広告しかできないことでしょうか?インターネットのブロードバンド化によって、動画がストレスなく見られるようになった現在では、各種の権利さえクリアすればTVCMをネットに流すことは簡単なことですから、テレビと同じように企業サイトでユーザーの心を揺り動かすような表現はできると思います。

 しかし、TVCMというものはテレビというメディアに最適化した表現方法ですから、ネットでCMを流してもやはり流用しているだけという感じを否めませんし、一時流行った、ショートムービーというようなものも、よほど必然性があるものは別として、多くは無理やり作ったような感じで、サイトに向いたコンテンツを探っている状態の過渡期的なものを感じさせます。

 企業のコアバリューを見つけ出したら、現在はいろいろな表現手法があると思いますから、安易に映像に頼ったりせずに、どうすればユーザーの感情に訴え、説得できるかという根本的な原理に立ち返って最適な手法を探ってもらいたいものです。

企業サイトはブランディングのインフラである

 企業サイトそれ自体に目を移してみると、最近の各企業のサイトの充実振りは凄いですね!情報量、デザイン性、ユーザビリティなども大きく改善されてきていますし、情報だけではなく、各種のサービスも充実してきました。ユーザーは何かの商品やサービスを探しているときだけでなく、デザインやサービスを楽しむ目的のためにも企業サイトを日常的に訪問しているのでしょう。

 企業サイトを運営するということは、まさに企業のファンづくり、つまり「ブランディング」をしていることになると思います。しかし、企業サイトを担当している人たちに「ブランディング」をしているという実感はあまり無いようです。むしろ「情報提供」をしているというイメージのほうが強いのでしょうが、情報提供の目的がファンづくりのひとつの手段であると考えれば、それも、「ブランディング」の一部を構成するものといえます。

 そう考えると企業サイトの立ち位置が明確になり、しなければならないこともはっきりとしてくるのではないでしょうか。

 これからインターネットは、コミュニケーションの中心の位置を占めると考えられますから、その中で企業サイトの位置づけとその戦略的な活用は企業の全体の戦略にも大きく関わってくることになると思います。

 そして、素晴らしい企業サイトをつくったら、そこに多くの人を誘導しましょう。というわけで、次回は、ADKの太駄さんにご登場いただき、インターネット広告についてお話を伺います。