長倉氏写真 筆者紹介 長倉 勉(ながくら・つとむ)
富士通総研公共コンサルティング事業部シニアマネジングコンサルタント/ASPIC ジャパン執行役員

富士通総研では、地方自治体における電子自治体・情報化計画策定、基幹系システム等再構築における最適化計画立案、共同利用・アウトソーシング基本計画立案等を担当。ASPICジャパンでは「災害時ICT基盤研究会」のリーダーとして、研究会の取りまとめめを担当。著書に『電子自治体アウトソーシング実践の手引き』(共著)。

 今回は、災害時に求められる情報に対し、現在稼働している情報システムを適合(マッピング)し、どの分野がシステム化されているかを見ていくとともに、今後、ICTを活用したシステムを導入・構築を行うにあたりどのような点に留意すべきかを考える。

■災害時に必要となる情報と情報システムのマッピングし、整理する

 災害時に求められる情報と、それらを提供する情報システムについて、前回それぞれ整理した。今回は、双方をまずマッピングしてみることにする。以下の表はマッピングの結果の図である。本研究会(災害時ICT基盤研究会)に参加している各企業が提供しているシステムと提供していないシステムとに分類・整理したものだ。

 安否情報等については、携帯電話会社やインターネット等関連会社よりすでに仕組みが提供されている背景があり、行政としての安否情報の取り扱いをどのようにするかが重要となるだろう。防災システムとしての大きな枠組みはすでに提供されていると考えられるが、それぞれの状況下における必要となる情報は何か、そして、その情報の連携部分について検討の余地がある。

■表1 災害時に求められる情報と情報システムのマッピング
災害時に求められる情報と情報システムのマッピング

 また、システムとしては大きな見える部分を中心にどうしても個別に整備が進む傾向があるが、例えば表1の赤い矢印部分が示すような、情報の横の連携と縦の連携がシステム的に実現していない。これをどのように実施していくかが、重要であると考える。

■情報と活用するシステムの関連性について課題を整理する

 災害時に求められる情報とそれらを提供する情報システムをマッピングしてみると、情報と情報を活用するシステムについて、被災地内における基礎自治体として取り組むべき課題を抽出・整理することができる。

  • 災害時の基本となる安否情報の確実な収集と公開のために有効な事前の準備と災害発生後の迅速な情報収集活動に、システム面でのサポート不足が考えられる。

  • 住民情報を得るためにどのような方法で情報を収集するか(迅速性・容易性)。

  • 住民の安否確認以降、地域内での被災状況・被災住民の健康情報の収集、避難所で必要となる備蓄品管理、地域外の組織(ボランティア他)との連携・調整、避難所の運営など、各種システム間でのデータの連携の不足

  • 住民情報を中心とした各種情報を元にしたシステム連携の不足(システム間を横断できるフォーマットの共通化がなされていない)

  • 救急医療との被災者情報(住民情報)の円滑な連携。最終的な地域医療との連携。

  • 被災者の生活基盤を復旧するための支援策の不足(対外的な支援団体との連携を図る場(仕組み)が少ない、被災者の迅速な罹災証明のための対応など)

  • 新たなインフラ基盤としての地上波デジタル放送との連携。さらには地上波デジタル放送のうち、特に重要な部分だけをワンセグで情報提供するなど地上波デジタル放送とワンセグ(地上デジタル放送による携帯電話などの移動体向けのサービス)との連携。

 以上のように災害発生時には、情報をどのように収集し、迅速に提供するかが、重要な課題であり、以後医療との連携や生活のための支援をどのように実施していくかが重要であると考える。

■対策が必要な仕組みと実現のための方策

 次に、抽出した課題に対し、どのように対応していくのか、実現のための方策、具体的な情報基盤・システムについて整理してみる。

 効率的に災害復旧作業を実施するためには、まず表2にまとめたようにインフラ基盤を準備することが求められる。

■表2 災害復旧作業を効率的に実施するための基盤/システムの条件
1.インフラ基盤の準備 災害に影響を受けない回線の確保
・衛星等を活用した通信手段
・現地への被災地への移動が比較的容易な可搬型の通信機器の導入(準備)
※イラク戦争等に用いた可搬型の衛星通信機器を広域自治体で協力して購入するなど、共同利用を視野に検討をすすめると比較的検討がしやすくなると考える。
2.災害時に採用する情報システムの考慮点
・誰もが使いやすい操作方法であること、情報の入手がしやすいこと、部門間での情報の連携が可能であること。また情報の多くが、視覚的に判断しやすい情報として整理されていること
・地域の情報より、災害発生時の活動の主体が、災害初期の初動対応を担っていた行政や警察・消防等の支援組織から地域住民に早期に移管され、原則、地域住民による自主的な活動により、復旧が目指せること
※緊急時に自主的な活動を可能とする情報システムとは、複雑な説明を受けずとも、視覚的に操作が把握でき、誰でも容易に使うことができることが必要である。また、これら情報システムの利便性をさらに高めるためには、日頃より訓練を行いシステムに慣れておくことが重要となる(後述)。
・行政機関等は、最小限の人員で、地域全体に向けた対策を行う必要があるため、国・県との連携、医療・警察・消防・地域外からの支援対応・調整など、自治体独自の「公助」の範囲に特化した地域への支援活動を主となる。この「公助」の範囲できちんと地域住民の復旧活動の支援が図れること

 表3は、必要となる情報基盤に対しシステム及び費用を整理した例である。考慮点と照らし合わせ適切なシステムを選択することが重要である。

■表3 具体的な情報基盤・システム及び費用(例)について
具体的な情報基盤・システム及び費用(例)について

 次回は、これまでの連載を総括し、今後解決すべき災害ICT基盤構築の課題について整理する。