文・高畑 和弥(日立総合計画研究所政策経済グループ 副主任研究員)

 ITポートフォリオとは、金融業界におけるポートフォリオの考え方をIT投資の分野に応用したものです。ポートフォリオとは、国債のようにリスクは低いがリターンも低い金融商品と、株式のようにリスクは高いがリターンも高い金融商品を複数組み合わせて運用することによって、資産運用全体としてリスクとリターンのバランスの両立を目指す手法のことです。

 地方自治体や企業などの組織では、予算や人員などの経営資源に限りがある中で、複数のITプロジェクトへの投資を並行して推進しなければならないのが一般的です。ITプロジェクトへの投資の優先順位を決定するに当たってITポートフォリオを活用することで、組織全体の戦略により適合したITプロジェクトに、経営資源を優先的に配分することが容易になります。

 ITポートフォリオには、「IT投資ポートフォリオ」と「ITプロジェクトポートフォリオ」の二つがあります。IT投資ポートフォリオでは、組織全体の観点からIT投資の優先順位付けを行うために、IT投資をその性質やリスクが共通するものごとにカテゴリー化し、カテゴリー単位での投資割合を管理します。

 このカテゴリーについては、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院スローン校の情報システム研究センターが推奨するモデルが有名です。同モデルでは、「戦略」「情報」「トランザクション」「インフラ」の4つのカテゴリー(表)に分類し、各カテゴリーに対する投資割合を管理することで組織戦略とIT投資の整合性を図ることを提唱しています。

■表 MITモデルにおけるカテゴリーの定義
戦略 市場における競争優位やポジショニングを獲得することを目的とした投資。例としては、導入当初のATMなどがこのカテゴリーに該当する
情報 より質の高い管理を行うことを目的とした、会計、マネジメント管理、レポーティング、コミュニケーション、分析等を支援するための情報提供に関連する投資
トランザクション 注文処理などルーチン化された業務のコスト削減や処理効率の向上を目的とした投資
インフラ 複数のアプリケーションによって共有される基盤部分を提供するための投資。PCやネットワーク、共有データベースなどが該当する
出典:経済産業省「業績評価参照モデル(PRM)を用いたITポートフォリオモデル 活用ガイド」より

 日本では経済産業省が2005年3月に「業績評価参照モデル(PRM)を用いたITポートフォリオモデルの活用ガイド」を策定しました。経済産業省のモデルでは、ITプロジェクトを投資目的に応じて、戦略目標達成型、業務効率化型、インフラ構築型の3つのカテゴリーに分類し、その上で用意した評価項目(戦略適合性、実現性)を用いてカテゴリーごとにITプロジェクト間の相対評価を行います(図)

 このように個々のITプロジェクトについて評価項目を設定し、その評価結果に基づき経営資源配分の優先順位を決定する手法を特に「ITプロジェクトポートフォリオ」と呼びます。

■図 ITプロジェクトポートフォリオの概念図
ITプロジェクトポートフォリオの概念図
出典:経済産業省「業績評価参照モデル(PRM)を用いたITポートフォリオモデル 活用ガイド」より

 従来は、複数のITプロジェクトについて優先順位付けを行う場合、ユーザー部門からの要望の大きさ、情報システム部門の経験など、属人的、定性的な材料に頼らざるを得ませんでした。しかしITポートフォリオを利用すれば、定量的な評価項目と定性的な評価項目の両方を用いてITプロジェクトを評価することが可能になります。

 その際、分類や評価項目を自分で設定することもできますが、経済産業省のITポートフォリオモデルでは、戦略適合性や実現性を点数化するためのチェックシートをあらかじめ用意しています。これをひな型として活用すれば、より簡単にITポートフォリオを導入することが可能になります。

 このようにITポートフォリオを活用することによって、全庁的に統一された評価項目を用いて複数のITプロジェクトを相対評価することが可能になります。これによって、自治体内部ではユーザー部門と情報システム部門がITプロジェクトに対する投資について議論する際に、より客観的な基準に基づいた合理的な議論を行うことが可能になります。また、住民に対しては、分かりやすい指標を用いてIT投資の判断基準を明確化することによって、アカウンタビリティの向上にもつながるでしょう。