「1万人調査で分かったITエンジニアの実像」の最終回に当たる第6回では,ITエンジニアが,どのようなスキルを重視しているか,今後どんなスキルを強化していきたいと感じているかといった,スキルに関する意識を探っていこう。エントリレベルとハイレベルでは,スキルに対する意識に大きな差があることが分かる。

 ITエンジニアのスキルと一言で言っても,アプリケーション・デザインやソフトウエア開発など直接情報システムに絡むものから,業務知識やコンサルティングの方法論,さらにプロジェクトマネジメントやコミュニケーションマネジメントのようなものまで,非常に幅広い。当然,自分の職種やスキルレベルによって,いまどのようなスキルが必要かも大きく異なってくる。

 この第6回では,これまでの回と同様に,スキルレベルを(1)エントリレベル(ITスキル標準で定義されたレベル1と2,およびレベル1に満たない「未経験レベル」:上位レベルの指導の下で職務の課題を発見・解決する),(2)ミドルレベル(レベル3と4:自らのスキルを駆使して課題を発見・解決できる),(3)ハイレベル(レベル5~7:社内外でビジネスをリードできる)の3階層に分けて,それぞれの傾向を見ていくことにしよう。

エントリは「必要なスキル/知識が分からない」ことが悩み

 「どのようなスキルがこれから必要になるか」という問題意識は,自分のキャリアをどのようにとらえているかに大きくかかわっている。まず,「今後のキャリアを考える上で,何が問題だと感じているか」を尋ねてみた(図1)。

図1●今後のキャリアを考える上で、何が問題だと感じているか(スキルレベル別)
図1●今後のキャリアを考える上で、何が問題だと感じているか(スキルレベル別)

 全体でみて,最も多かったのは「周囲に目標となる人物がいない」(19.6%)。レベル別にみると,ハイレベルが最も多く,30.4%を占めた。これは,エントリレベルのほぼ倍である。レベルが上がるにつれて,自分が「こうなりたい」と考える人材が周りにいなくなってくるのは当然といえよう。

 全体平均では,これと「漠然とした目標はあるが,実現するために必要なスキル/知識が分からない」(18.4%),「日常の仕事に追われて,将来を考える余裕がない」(17.8%),「漠然とした目標はあるが,会社の制度や事業などに制約があり,実現できない」(16.7%)がほぼ並ぶ。だが,レベル別にみると,傾向が大きく異なる。

 エントリレベルでは,最も多いのが「必要なスキル/知識が分からない」(20.0%)。「将来を考える余裕がない」(18.8%)がこれに続く。エントリの平均年齢は31.4歳。いきなり社会人となり,自分のキャリアやスキルの現状や今後をきちんと見直す間もなく,日々の仕事に追われるエンジニアの姿が浮かび上がる。

 ミドルレベルになると,「周囲に目標となる人物がいない」(23.4%)と「目標はあるが,会社の制約で実現できない」(21.7%)が上位に来る。ミドルの平均年齢は37.1歳。仕事に慣れてきて,それなりに責任のある立場になり,自分なりにキャリアを模索しようとする頃だ。「必要なスキル/知識が分からない」(17.2%)と「将来を考える余裕がない」(17.1%)も,まだ多い。

 平均年齢41.6歳のハイレベルでは,「周囲に目標となる人物がいない」(30.4%)と「目標はあるが,会社の制約で実現できない」(同)が上位なのはミドルと同じだが,「必要なスキル/知識が分からない」(9.1%)と「将来を考える余裕がない」(12.3%)との差が大きくなる。ミドルよりも知識豊かで,将来をじっくり考えているのが,このクラスのエンジニア像だ。

 同じ質問を年齢別に見たのが図2である。エントリ,ミドル,ハイの差は年齢とほぼ比例しているので,傾向は図1とほぼ同じである。エントリで最も多い「必要なスキル/知識が分からない」とハイで最も多い「周囲に目標となる人物がいない」に注目すると,30歳までは前者が大きく,31歳以上で後者が大きくなる。30歳を越えたあたりで,自分のキャリアに対する問題意識が変わってくることがうかがえる。

図2●今後のキャリアを考える上で、何が問題だと感じているか(年齢層別)
図2●今後のキャリアを考える上で、何が問題だと感じているか(年齢層別)
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ハイレベルにより求められるリーダーシップ

 こうしたキャリアに対する問題意識を踏まえた上で,ITエンジニアは現在,どのようなスキル/知識が必要だと感じているかを見ていこう。ここではスキル/知識を,(1)コンサルティングやセールス,(2)システムや製品の設計・開発,(3)運用管理やサービス,(4)プロジェクトマネジメント,(5)すべての職種にかかわるもの,の五つに分類する(表1)。

表1●現在の仕事に必要なスキル/知識(複数選択可)
表1●現在の仕事に必要なスキル/知識(複数選択可)
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 エントリ,ミドル,ハイのレベルに共通して高いのは,(5)。「リーダーシップ」や「コミュニケーションマネジメント」など,主に人間にかかわるスキルがここに含まれる。

 中でも目立つのは,コミュニケーションマネジメントだ。三つのレベルすべてで,他のスキル/知識よりも「現在の仕事に必要」と回答した割合が最も高かった。特にハイでは,82.4%が回答した。どのレベルでも社内外のメンバーとのコミュニケーションは欠かせないが,特にプロジェクトで主導する役目を担うことが多いハイレベルの人員は,このスキルが必須になることが分かる。

 (5)で,次に多かったのはリーダーシップである。エントリでは36.6%だが,ハイは82.4%で,コミュニケーションマネジメントと同じ。コミュニケーションマネジメントに比べると,エントリとハイの差はより大きい。ハイレベルの人材に,コミュニケーション能力とリーダーとしての能力の双方が求められるのは,当然だろう。

 そのほかのスキル/知識を見ても,ほとんどがエントリよりもハイのほうが上回っている。「ITソリューションの提案」(72.7%),「プロジェクトマネジメント全般(PMBOK)」(75.3%)といったマネジメントあるいは上流工程に関係するスキルだけでなく,「ソフトウエア開発(外部/内部設計など)」(55.9%)も,ハイのほうがエントリよりも割合が高い。ハイレベルの人材は,ある特定の分野だけでなく,(1)~(5)までのスキルをまんべんなく備えている必要があるといえるだろう。