企業の損益分岐点分析

 企業や部門に対して損益分岐点分析を適用する場合は,横軸の変数は売上高を取った方が分かりやすい。この場合の変動費は,売上高に対する変動費率を使う。

 費用を固定費と変動費に分解することを「固変分解」というが,企業や組織単位で発生する費用は,必ずしも固定費と変動費にきれいに分けられないので,固変分解は実務的にはなかなか難しい。

 よく使われる方法は,勘定科目毎に変動費と固定費を決め打ちする「勘定科目法」と呼ばれる方法だ。例えば,製造業における製造原価であれば,直接材料費のみが変動費で,それ以外の費用はすべて固定費とする。非製造業であれば,ほとんどが固定費と言っていいだろう。

 他の方法としては,売上と費用の月次又は年次推移から,最小自乗法により回帰直線を求める方法がある。回帰直線のy切片が固定費であり,傾きが変動費率である(図1)。

図1
図1●最小自乗法による固変分解

変動費中心型と固定費中心型

 相対的な分類であるが,企業は,固定費は比較的小さいが変動費率が大きい「変動費中心型」と,固定費は比較的大きいが変動費率が小さい「固定費中心型」に分けることができる(図2)。

図2
図2●変動費中心型と固定費中心型

 前者は,商品の売買を行う流通業や,直接材料費比率の大きい製造業などが該当するだろう。IT系企業で言えば,ハードウエアの販売を行っている企業は,相対的に変動費が高いはずだ。

 後者は,人件費比率の大きいサービス業や,製造原価はそれほどでもないが莫大な研究開発費がかかる医薬品メーカーなどが該当するだろう。IT系企業で言えば,ソフトウエア開発などのサービス提供が主体の企業は,相対的に固定費中心型といえるだろう。

 変動費中心型の企業の場合は,損益分岐点が小さいので,利益は出やすい。ただし,損益分岐点を超えた後も,変動費率が高いために,それほど大きな利益が得られるわけではない。逆に言えば,損益分岐点を下回ったときでも,それほど大きな損失になることもない。したがって,変動費中心型の企業は,ローリスク・ローリターンといえる。

 一方,固定費中心型の企業の場合は,損益分岐点が大きいので,利益が出るまでに相当の売上規模が必要になる。ただし,損益分岐点を超えれば,変動費率が小さいために,大きな利益が出るようになる。しかし,これは諸刃の剣で,損益分岐点を下回ったときは,急激に利益がマイナスになる。したがって,固定費中心型の企業は,ハイリスク・ハイリターンといえる。

金子 智朗(かねこ ともあき)
 コンサルタント,公認会計士,税理士。東京大学工学部卒業,東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。日本航空株式会社情報システム本部,プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント等を経て独立。現在,経営コンサルティングを中心に,企業研修,講演,執筆も多数実施。特に,元ITエンジニアの経験から,IT関連の案件を得意とする。最近は,内部統制に関する講演やコンサルティングも多い。

著書に,「MBA財務会計」(日経BP社),「役に立って面白い会計講座」(「日経ITプロフェッショナル」(日経BP社)で連載)など。
【ホームページ:http://www.brightwise.jp