浜松市立図書館は2006年10月1日、バーコードを使った現行の蔵書管理システムを、無線ICタグベースのシステムに切り替えた。全図書200万冊にICタグを張り付け、自動貸し出し機や自動倉庫を導入することで、利用者の利便性を向上させる。総投資額は約10億円である。図書館のICタグ導入事例としては、国内最大規模となる。

 今回のICタグシステム導入のきっかけは2005年7月、旧浜松市に周辺11市町村が編入合併され、新「浜松市」が誕生したことだった。旧12市町村のうち、9市町村にコンピュータシステムが導入されていたが、図書に張り付けているバーコードのコード体系が、8システムで重複していた。同じ番号を、最大8冊に割り当てている可能性があった。市町村合併後は、市内の異なる図書館間で利用者が貸し借りできるようにするうえでも、コード体系を全施設で統一する必要があった。コード体系を変更する図書館のバーコードは張り替えなければならない。

 バーコードの張り替えには大きなコストがかかる。しかし同じバーコードに張り替えるのなら、提供できるサービスは従来と変わらない。「サービス向上を目指し、ICタグ導入を決断した」(浜松市立中央図書館の辰巳なお子館長)という。ICタグシールの単価は112円(写真1)。200万冊分を7年リースで導入し、総コストは2億7000万円である。そのほかの機器やソフトウエアは、6年リースで約7億円。総額で約10億円となった。

写真1 ICタグ内蔵の図書ラベル インレットはリンテック製。ICタグチップはオランダのロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス(現在のNXPセミコンダクターズ)の13.56MHz帯対応製品。

プライバシ保護の強化や閉館日の短縮実現

 新図書館では、ICタグを使った自動貸し出し機の導入により、プライバシ保護の強化と貸し出し処理のスピードアップを図った。自動貸し出し機では、どの図書を借りたか図書館員に見られずに済み、10冊程度までならリーダーの棚にまとめて載せるだけで、貸し出し手続きができる。図書館員は業務の負担が小さくなるが、人員は減らさない。推薦図書の相談や、調査・研究のサポートといったサービスをより充実させる。自動貸し出し機は、浜松市の22カ所の図書館のうち、年間20万冊以上の貸し出しがある10館に導入した。

 年1回の棚卸しの効率化にも期待する。バーコードの場合は、図書を1冊ずつ取り出して読み取らなければならないが、ICタグは背表紙の方向からリーダーをかざすだけで読み取れる。ICタグを張り付けた図書を提供している図書館流通センターの渡辺太郎取締役によれば、「作業時間は5~7分の1程度になる」という。もっとも棚卸し作業は、ICタグを読み取るだけでは終わらない。書架の図書をそろえたり、本来の場所にない図書を元の場所に戻したりするのに必要な時間は、ICタグ導入後も変わらない。それでも「棚卸し時間を2~3割程度短縮できそう。棚卸しのための休館日を、5日から4日に減らすといったことをぜひ実現したい」(辰巳館長)という。