松下電器産業パナソニックシステムソリューションズ社(松下PSS社)はこのほど、無線LANによるアドホック(自律分散型)ネットワークと無線ICタグを組み合わせた「街角見守りセンサーシステム」の実用化にメドを付けた。総務省のユビキタスセンサーネットワーク技術に関する研究開発プロジェクトの一貫で開発した実験用のシステムをベースに、登下校時の子供の安全を守るのに有効なシステムとして完成させた。2007年度末のプロジェクト終了後に、できるだけ早く実用化したいという。

 松下PSS社が開発した実験用システムは、2006年2月20日から3月20日に大阪市内で行われた実証実験で使用された。実用化のメドを付けた今回のシステムは、この実験用システムと基本的に同じである。大阪市立中央小学校(大阪市中央区)の学区内で行われた実証実験では、ICタグのリーダーやIPカメラ、無線LANの送受信機器などを搭載した「見守りノード」を、同小学校の通学エリア(約600m×約600m)内に10台設置した(図1)。中央小学校の児童約100人には、アクティブ型とパッシブ型の2枚のICタグを携帯してもらった。2枚のICタグはポリウレタン製のケースに入れて、ランドセルに取り付けた。

図1 松下PSS社が開発したシステムの概要
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 学区内に設置した見守りノードの前を児童が通過すると、ランドセルに取り付けたICタグのID番号をノードに搭載したリーダーが読み取る。読み取ったID番号は、IPカメラで撮影した児童の静止画像(通過時の10秒程度)とともに、無線LANを経由してサーバーに送られる。無線LANの周波数は5GHz帯と2.4GHz帯を併用し、どちらの通信品質が良いかを調べた。

アクティブ型で通過確認、UHF帯は映像撮影用

 ノード間で自律的に通信を行うこうしたアドホックネットワークを構築することで、それぞれの児童が「いつ登校し、いつ下校したか」、「登下校時に、どの通学路をいつ通ったか」をリアルタイムで確認した。登下校時の情報は校門を通過した時点で、保護者のパソコンや携帯電話機にメールで通知した。登下校中に通った経路の情報は専用のホームページで、通過時の映像とともに確認できるようにした。

 使用したICタグのうちパッシブ型はUHF帯(950MHz帯)の周波数に、アクティブ型は426MHz帯の周波数に対応した製品である。UHF帯対応ICタグはノードの前を通過した児童の撮影用に、アクティブ型ICタグは各ノードの通過確認用にそれぞれ使用した。撮影用にUHF帯対応ICタグを使用したのは、プライバシに配慮して目的の児童だけを撮影しやすくするためである。リーダーの出力を1W程度に調整して、ICタグとリーダーとの通信距離を3~5mに設定した。

 一方、各ノードを通過した複数の児童の通過確認を行うには、通学路の幅などから考えて、15m程度の通信距離が必要になる。そのため、特定小電力無線局の免許が必要で、UHF帯ICタグより通信距離が長い426MHz帯対応のアクティブ型ICタグを使うことにした。

 こうした2種類のICタグの使い分けによって、児童の通過確認と画像撮影のいずれにおいても、99.5%以上の見守り率(ICタグを持つ児童数に対するICタグの検出数の比率)を達成した。例えば登校時の約15分間に、100人の児童は一斉に校門を通過する。こうした状況でも、すべてのICタグを読むことができたという。

 「見守り率が100%にならなかったのは、ランドセルからICタグ入りのケースが外れたり、取り付けるのを忘れたりしたためだ。技術的には、ほぼ100%の見守り率を実現できている」(松下PSS社先行技術センター戦略連携グループマネージャーの宮本和彦氏)という。

通信品質は5GHz帯の方が良かった

 一方、無線LANの通信品質は、2.4GHz帯よりも5GHz帯の方が良くなるのが分かった。各ノード間の通信速度を両方の周波数帯で調べたところ、5GHz帯の場合はすべてのノード間で、当初の目標だった1Mb/sを確保できた。2.4GHz帯の場合は、通信速度が1けた低かったようだ。実験開始当初に松下PSS社は、周波数が低い2.4GHz帯の方が通信距離を長くでき、使いやすいと考えていた。しかし実際には、「5GHz帯の方が使い勝手が良いことが分かった。実用システムでは5GHz帯を採用する」(宮本氏)という。

 実証実験に参加した児童の保護者にアンケートを行ったところ、75%の保護者が「満足」と回答し、「不満足」と回答した保護者はいなかったという。特に「下校時の安心感が高まる」という声が、数多く寄せられた。こうした実証実験の結果を受けて松下PSS社は、総務省のプロジェクトが終了する2007年度末以降に、今回のシステムをなるべく早く実用化したい考えだ。「将来的には、わが社のユビキタスセキュリティ事業の中核システムに育てたい」(宮本氏)という。



本記事は日経RFIDテクノロジ2006年10月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです