前回は,動画共有配信サービスについての法的な問題点を検討しました。日米いずれの場合でも,原則としては「違法コンテンツが存在したら直ちに違法」とは言えません。ただし,違法コンテンツの割合が多くなると,法的な問題になりかねません。そこで,動画共有配信サービスを合法的に提供する上で,事業者が違法コンテンツをいかに排除していくのか,その仕組み作りが問われることとなります。

 まず,事前の対応として最低限行わなければならないのは,利用規約中に動画投稿の際に著作権に違反しない旨の条項を定め,同意を得ることです。

 それでは,投稿動画が公表(配信)される前に,事前に審査することは必須でしょうか。YouTubeの場合,動画投稿の際の事前審査は実施していません。ですが,その他の動画共有配信サービスでは,事業者の側で事前に動画内容をチェックするケースが比較的多いようです。ただしこれは,プロバイダ責任制限法等の法律で要求されているからというよりは,コンプライアンス,リスクヘッジの観点から事業者の側で自発的に実施している対応である,と考えられます。なお,ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の一環として動画投稿を認めている事業者では,事前審査無しでの投稿を認めているようです。

 次に投稿後の対応ですが,著作権者等からの削除要請等に迅速に対応することは基本中の基本ということになります。また,違法な動画を通報するボタンを設けているサービスもいくつかあります。権利者側に,ある程度配慮した仕組みを設けることは必須であると考えられます。

 なおSNSサービスでは,会員制かつ知り合いが多いことから,問題のある投稿が少ないという見方もあります。しかしその一方で,動画の閲覧者がサービス参加者に限定(あるいは知り合いの範囲に限定)され,著作権者側からは違法コンテンツが発見しにくいという側面もあります(注1)。従って,動画共有配信サービスの位置づけ,特性に応じた対応が必要であると思われます。

違法コンテンツ排除に決定的な対策があるわけではない

 では,自動的に違法コンテンツを検知するシステムを導入する方法はどうでしょうか。YouTubeもGoogleの協力を得て,自動検出に関する技術を開発しているようです(関連記事)。日本のサービスでも,NTTグループが運営する「ClipLife」は,著作権侵害などの不正な映像を半自動的に検出する技術を導入しているようです(注2)。ただ,動画検索のシステムについてはまだまだ改良の余地が高い分野だと言われています。現段階で自動検出は,前記のような人手を介した違法コンテンツの発見の補助手段という位置づけでしょう。ただ,違法コンテンツを放置していると言われないためには,このような技術開発の姿勢は不可欠です。

 現状では日本のサービスでは動画投稿数がYouTubeなどと比べて少ないため,事前審査が可能になっている側面があります。広く投稿を集めたい,サービスを浸透させたいというのであれば,事前審査制はいずれ破綻せざるを得ず,違法コンテンツの自動検出,検出補助システムの開発は不可欠となってくるでしょう。

 これ以外の対策としては,著作権者等のコンテンツ保有者と連携することにより,利用者による適法なコンテンツ作成を増やすことが考えられます。YouTubeも米国ではコンテンツ保有者との提携に動いています。2007年2月6日にYouTubeの関係者が日本音楽著作権協会(JASRAC)など国内23団体と協議したのも,YouTubeがこれらの団体との連携を模索しているため,と言われています。

 ただ日本の場合,著作権者等がYouTubeに何らかの許諾を与えるとは,現状では考えにくいでしょう。特にテレビ番組等のコンテンツについては,インターネットでの有料配信サービス自体がうまく立ち上がっているとはいえない状況にあります。有料配信モデルでさえ権利者側の動きとしては鈍いのに,ビジネスモデルが確立していない動画共有配信サービスとの連携に動くとは考えにくいわけです。

 YouTubeの利用者に日本のユーザーが多いのは,テレビ番組の本放送を一度見逃すと,なかなか見ることが難しい現状に対する不満があるからでしょう。きちんとお金を払うつもりがあっても,放送後に見ることができる番組はDVD化されるようなものか,一部のネット配信されているものに限られてしまい,大多数のテレビ番組コンテンツは再放送を待つしかありません。このニーズを満たす方向で動画共有配信サービスを合法的に提供することは,事実上難しいと考えられます。

 その他の方向性としては,サービス事業者側でコンテンツ素材(音楽等)の著作権をきちんと処理した上で利用者に提供し,それらを使った動画投稿を促すやり方があるでしょう。テレビ番組などは利害関係者が多く,権利処理に手間あるいはコストがかかりますし,さらには,視聴率確保のために放送以外での露出を好まないというビジネスモデル上の問題があります。しかし,素材レベルで許諾をとることは,番組自体の権利処理に比べれば,それほど難しくはないはずです。

 以上のように,違法コンテンツを排除する上で決定的な方法があるわけではありません。いくつもの対策を複合的に実施していくほかないということでしょう。

(注1)代表的なSNSサービスである,mixiは「著作権等管理プログラム」というものを用意し,著作権者等は投稿された動画の一覧表示画面にログインできる制度を設けるようです。著作権者等への配慮という点で評価すべき取り組みと思われますが,一部のみ公開の設定を行っている動画が,管理者事業者以外の事業者にも公開されるのだとすれば,利用者の意図に反するのではないかという点で問題があるかもしれません(同プログラムの詳細が分かりませんので,何らかの対応がとられている可能性はあります)
(注2)この記事によると,ClipLifeは「過去に不正と判定された映像との同一性を判定し,再投稿を拒否する技術や,映像の中から必要な部分を抽出して人手による判別を短時間化する技術などについて,トライアル期間中に検証することにしている」とのことです。


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。