■指定管理者制度の導入や公共サービス改革法の施行などで、これまで自治体が行ってきた事業を民間開放する動きが加速している。果たして、情報システムや個人情報の管理体制などはどうなっているのか。民間開放に挑戦する自治体の動きを追った。(本間 康裕)

※ このコンテンツは『日経BPガバメントテクノロジー』第14号(2006年12月15日発行)に掲載された記事を加筆・再構成したものです。

 事業の民間開放を実施するために、指定管理者制度や公共サービス改革法など、PPP(注1)的手法を利用する自治体が急増している。背景には、財政難から来るコストダウン、民間の創意工夫や事業経験の導入によるサービス向上、など様々な思惑がある。

(注1)Public Private Partnership(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の略で、官民がパートナーを組んで事業を行う官民協働の手法を指す。事業の企画段階から民間事業者を関与させるなど、大幅に民間に任せる点が特徴。

 利用者である市民から見れば、民間委託によってサービスが向上するのか、税金が有効活用されるのかが、まず気になるところだ。それに加えて、住民情報を扱うサービスの場合、個人情報保護対策の内容も大きな関心事といえるだろう。まずは、既に導入が進んでいる指定管理者の個人情報保護対策事例を見てみよう。

■千代田区が図書館委託でモニタリング組織を設置

 公共施設の運営に関して地方自治法の一部が改正され、2003年9月に施行された。以前の管理委託制度では財団法人など自治体の出資団体に限定されていたが、民間企業でも地方自治体から「指定管理者」として指定を受ければ、公共施設の管理代行ができるようになった(注2)

(注2)従来の管理委託制度で自治体などが管理していた施設は、2003年9月2日から3年間のうちに指定管理者制度の対象にするか、直営管理にするか、どちらかに決めなければならなかった。なお、改正法施行後に新たに管理を開始する施設は、管理開始する前にどちらかを選択する。

 東京都千代田区では、指定管理者制度を導入して、区立図書館の管理・運営を民間に開放する。今年7月の募集に5事業者グループから応募があり、学識経験者などで構成される選定委員会で審議した結果、ヴィアックスなど3社のグループが選ばれた(図1)。対象となるのは、区立図書館4館すべての運用とシステム管理で、期間は2007年4月から2012年3月までの5年間となる(注3)

(注3)5年間の区の指定管理料としての支出は約12億円を想定(現在の図書館関連の支出は年2億円程度)。ただし、金額には、2008年に図書館のシステムを刷新するコストも含まれる。また、区の教育委員会図書文化財課は指定管理者制度導入に伴って部署が廃止され、現在の7人の職員は他部署に異動になる。解散後に区の図書行政に関する企画を練る2人程度の部署を作る計画もあるが、人件費も含めればコスト削減につながることになる。

■図1 千代田区の新図書館構想
千代田区の新図書館構想

 千代田区教育委員会図書文化財課の大坂進課長補佐は「選定した業者は、GM(ゼネラルマネジャー)や館長、現場の業務責任者にはこういう人を雇う、と経歴を提示してきた。いったん指定管理者に任せると、区は運営の中身に直接は関与できないので、こういう姿勢には高い評価がついた」と説明する。また、千代田区に多い大企業から資料を預かる代わりに協賛金を得るなど、共同事業案も示してきたという。

 個人情報保護対策はどうなっているのか。図書館では、利用者の住所、氏名、生年月日、電話番号の4種類の個人情報が集まる。千代田区は、こうした個人情報の保護に関しては、指定管理者との基本協定書に個人情報保護規定を入れて、区の個人情報保護条例が適用になると明記している。

 加えて、指定管理者を公募する際に、(1)図書館業務の再委託はしないこと、(2)派遣社員は利用せず従業者は指定管理者が直接雇用すること、という条件を付けている。

 さらに、千代田区では、モニタリングのための組織として、外部識者も入れた業務評価評議会と、事業者と定期的に話し合う連絡協議会を設置する計画を進めている。「運営内容に直接関与できないので、こうした組織は非常に重要だと考えている」(大坂課長補佐)。事業の運営状況はもちろん、セキュリティや個人情報保護の面でも、チェックを働かせるのが目的である。

進む自治体事業の民間開放
個人情報の管理体制整備はこれから