石堂氏写真 筆者紹介 石堂 一成(いしどう・かずしげ)

1948年生まれ。京都大学工学部数理工学科卒業。工学博士、技術士(情報処理部門)。三菱重工業、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1991年に東京コンサルティング(株)を設立し、代表取締役社長に就任。日本国内、欧米、東南アジアで、事業戦略・マーケティング戦略・提携戦略・システム戦略・業務改革・組織改革などのコンサルティングに従事。システム分野には特別に注力し、日本経済新聞社などと国内主要企業の「システム格付け」を実施したほか、2005年から日経BPガバメントテクノロジーと自治体の「システム格付け」を実施している。2003年に外務省CIO補佐官にも就任(現任)。著作は、「オープン時代の情報システム」(共著、富士通経営研修所)など。

 連載第3回目は、日経BPガバメントテクノロジーと東京コンサルティングが昨年実施した「第2回自治体の情報システムに関する実態調査」の結果から、自治体の自主的連携に関して分析してみた。自治体同士でどのように連携し、どのような効果をあげているのだろうか。

■施策を1つでも実施している自治体は34.2%

 まず、個別の連携策の実施率を見てみよう(図1)。ここでは「個別」というのは、総務省が提唱した「共同アウトソーシング事業」の成果を生かしたシステム共同化(電子申請などで、都道府県単位で、全団体参加を目指して共同化を進めるケースが多い。以下、共同アウトソーシングモデルと呼ぶ)を推進・実現しているケース以外での、複数の自治体の有志での連携を指す。総務省モデルに参加するのに比べて、メンバー自治体が主体的に行動し、自分たちで認証方式や操作性などの仕様を検討するなど、強い参加意識と連携を必要とする。

■図1 各施策の実施率(n=423)
各施策の実施率

 実施している施策別に見ると、(1)システム共同化は22.0%(例:神奈川県横須賀市の電子入札システムを山口県下関市など5市が利用しているケース)、(2)システム共同化の対象業務の連携化・一本化は6.6%(例:愛知県知多市など5市5町による公共施設の相互貸し出し)、(3)民間ASPサービスの共同利用は6.4%(例:神奈川県横須賀市・三浦市・葉山町の統合型GIS)、(4)システム/データの相互バックアップは2.6%(例:神奈川県小田原市と栃木県日光市、山梨県甲府市の防災情報システム・データ相互バックアップ)、(5)他の自治体が開発したソースまたはシステム/ソフトの利用 は1.9%(例:福岡県が公開している「共通化技術標準」に基づく埼玉県鳩ヶ谷市による共通基盤システムの新規開発)、(6)自ら開発したシステムの他自治体への提供 は5.0%(例:兵庫県西宮市の地図案内システム「道知る兵衛」のソースコード提供)である。

 これら6つの共同化施策の1つでも実施している自治体は、34.2%となった。これは、共同アウトソーシングモデルのみへの参加団体数(18.0%)を上回っている。

■地域別では3大都市圏が先行

 次に、地域別でどのような違いがあるかを見てみよう。

 自治体同士の自主的連携は、やはり3大都市圏で先行しているようだ。実施自治体数の比率を地方別に見ると(図2)、3大都市圏では、関東42.7%、近畿42.6%、中部38.6%と高い。他の地方では九州・沖縄28.6%、中国26.7%、四国22.7%、北海道20.0%、東北18.6%と続く。

■図2 自治体間の連携率(地方別)(n=423)
自治体間の連携率(地方別)
(注)図1の6施策の少なくとも1つを実施

 なお、自主開発したシステムを他のへ提供している自治体、逆に、他の自治体が自主開発したシステムを利用している団体も、3大都市圏での実施例が多い。自主開発したシステムを他自治体へ提供している21団体のうち12団体、他の自治体が開発したソースまたはシステム/ソフトを利用している8団体のうち6団体が、3大都市圏に属している。

 個別の自治体のケースを見てみよう。共同アウトソーシングモデル以外で最も多種の施策に取り組んでいる自治体は、千葉県市川市と福島県会津若松市の4種類である。市川市は、有志の自治体とのシステム共同開発・運営に加え、その対象業務まで含めた連携化・一本化、自主開発したシステムの他自治体への提供、他の自治体が開発し提供するシステムの利用を行っている。会津若松市は、システム共同開発・運営、その対象業務までの連携化・一本化、民間のASPサービスの共同利用、及び自主開発したシステムの他自治体への提供を行っている。

■連携の効果は低コストでのサービス提供

 続いて、連携でどんな効果を上げているかを見てみたい。

 何らかの自主的連携をしている自治体は、他の自治体と比べて低コストでの住民向けオンラインサービス提供(注1)を実現していると言える(図3)

(注1)オンライン化率が3分の1を超える3種のサービスのうち、最も複雑・高コストなシステムを要する電子申請・届出(公的個人認証有)と、最も簡易・低コストのシステムで提供可能な施設予約について検証した。

■図3 住民向けオンラインサービスの1件当たり費用
 (他自治体との連携の有無別)
住民向けオンラインサービスの1件当たり費用(他自治体との連携の有無別)
(注)図1の6施策の少なくとも1つを実施
※オンライン化を実施していて費用・利用件数を把握している自治体のみ

 電子申請・届出(公的個人認証有)の1件数当たり平均費用を見ると、これを10万円未満に抑えている自治体は、自主的連携を実施している自治体(注2)では15.6%。共同アウトソーシングモデルのみへの参加自治体(注2)の9.1%、いかなる共同化も未実施の自治体(注2)の2.9%よりも、はるかに高い率となっている。

(注2)いずれの連携状況に関しても、電子申請・届出(公的個人認証有)をオンライン化しており、しかも2005年度のオンライン利用の費用と件数を把握している自治体に占める比率。