(田辺 武=日本ヒューレット・パッカード)

 Windows VistaやOffice 2007に続いてリリースされた「Exchange Server 2007」は,2003年10月に登場した「Exchange Server 2003」以来の3年ぶりのバージョンアップだ。Exchangeの最初のバージョンである「4.0」がリリースされてから10年目という節目の年にリリースされたExchange 2007は,アーキテクチャが大きく一新されている。Exchange 2007にスムーズに移行するための手法を紹介しよう。

 これまでもExchangeには,何度か大きな仕様変更があった。Exchange Server 4.0から5.0へ,Exchange Server 5.5からExchange 2000 Serverへのバージョンアップなどがそうであった。今回リリースされたExchange 2007も,64ビット専用になるなど,多くの仕様が変更されている。そこで本記事では,既存環境からExchange 2007への移行に備えて準備しておきたい事柄や,移行方法について紹介する。

 なお,それぞれの画面ショットは,評価版を使用した検証環境のものであり,実際の運用環境での設定と異なる場合があるのでご注意いただきたい。また,参照先のリンクは,できる限り日本語を優先したが,一部英語のページも含まれているのでご了承いただきたい。

Exchange 2007での主な変更点

 現在,メッセージング・システムは,基幹業務システムと同様に,企業にとって不可欠なものになっている。メッセージング・システムにも,高可用性や高性能,堅牢なセキュリティが求められるようになった。Exchange 2007の開発コンセプトも,このような要件を実現することであり,そのための施策として64ビット化が進められた。

 実は,Exchange Serverの64ビット版は,過去にも存在した。1992年に,旧Digital Equipmentが開発したAlphaチップを採用した64ビット版のExchange Serverが発売されたことがあるのだ。当時は,まだCPUの価格も高く,企業情報システムに採用される機会は少なかった。

 しかし,昨今の劇的なハードウエアの進歩によって,CPUの価格が下がり,64ビットのプラットフォームが一般化するようになった。こういった時代の変化を背景に,生産性と運用性を重視した「64ビット版のExchange 2007」が製品化されることとなったのである。Microsoftは,32ビット版も検証用として提供するとのことだが,運用環境で使用する場合の製品サポートが受けられなくなる。ただし,32ビット版のオペレーティング・システム上でも,Exchangeが使用するActive Directoryのスキーマを拡張したり,Exchangeの管理ツールをインストールして使用したりできる(関連情報:マイクロソフトのサポート技術情報「Installing Exchange 2007 Management Tools On a 32 Bit Operating System」」)。

Exchange 2007の64ビット化が意味するもの

図1●米Hewlett-PackardのPierre Bijaoui氏が示した,メモリー容量とI/Oの関係
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 システムが64ビット化すると,一般的には,一度に扱えるデータ量が増加することで,処理能力が向上すると言われている。Exchange Serverの場合も同様で,64ビットのハードウエアおよびオペレーティング・システムを使用することで,より多くのメモリーを有効に利用でき,データベースのキャッシュ効果によってI/Oが約70%減少する。さらに,データベースのI/Oは,増設するメモリー容量に応じて減少することが分かっている。

 図1は,米Hewlett-PackardのPierre Bijaoui氏が「Exchange Connections 2006」というイベントの基調講演で示したスライドだ。サーバー・メモリーを増設すると,I/Oが減少することが示されている。また,64ビット化によって,メモリーのフラグメンテーションによる影響が抑止され,サーバーが安定することも期待されている。

 なお,Exchange 2007がサポートする64ビットのプロセッサは,「AMD64」または「Intel 64」であり,「Intel Itanium」プロセッサはサポートされていない。

データベースの仕様も変更

 Exchange 2007では,データベースの仕様も拡張している。これまで,サーバー当たり最大4個のストレージ・グループ,ストレージ・グループ当たり最大5個のストア・データベースしか作成できなかったが,Exchange 2007ではサーバー当たり最大50個までのストレージ・グループまたはストア・データベースを作成できるようになった。

 また,Exchangeのデータベース・エンジンである「Jetデータベース」のページ・サイズを4Kバイトから8Kバイトに増やすことで,IOPS(1秒間に可能なI/Oの回数)の効率化を図り,Exchange Serverの処理能力を高めている。

 一方,Exchange 2000や2003で使用されてきたストリーミング・データベースは,姿を消すことになった。これは,データの変換に要する負荷を減らすことが目的といわれている。また,トランザクション・ログ・ファイルのサイズが5Mバイトから1Mバイトに変更された。これは,Exchange 2007の新機能であるローカル連続レプリケーション(LCR)とクラスタ連続レプリケーション(CCR)のログ配布にかかる遅延を抑えるためである。

 その他の主な変更点として,ルーティング・アルゴリズムがリンク状態ルーティングからActive Directoryのサイト構成に基づいたルーティングへ変わった。最大の理由は,リンク状態ルーティングを用いると,ネットワークの構成によっては大量のトラフィックが発生してしまうことが分かったからである。また,アクティブ-アクティブ・クラスタがサポートされなくなったので,移行時にはご注意いただきたい。

 Exchange 2000/2003と,Exchange 2007の違いについては,表1にまとめたので参考にしていただきたい。

表1●Exchange 2000/2003とExchange 2007の違い
  Exchange 2000 Enterprise Server Exchange 2003 Enterprise Edition Exchange 2007 Enterprise Edition(メールボックス・
サーバー)
プロセッサ Pentiumまたは互換の200MHz以上(32ビット) Pentiumまたは互換の733MHz以上(32ビット) Intel 64またはAMD 64
メモリー 256Mバイト以上(推奨) 512Mバイト以上(推奨) 2Gバイ以上(推奨)
ストレージ・グループ 各サーバー当たり最大4個 各サーバー当たり最大4個 各サーバー当たり最大50個
ストア・データベース 各ストレージ・グループ当たり最大5個 各ストレージ・グループ当たり最大5個 各サーバー当たり最大50個/各ストレージ・グループ当たり5個
Jetデータベース(.edbファイル)のページ・サイズ 4Kバイト 4Kバイト 8Kバイト
ストリーミング・データベース(.stmファイル)のページ・サイズ ランダム ランダム ストリーミング・データベースは使用しない
トランザクション・ログ・ファイルのサイズ 5Mバイト 5Mバイト 1Mバイト
ルーティング・アルゴリズム リンク状態ルーティング リンク状態ルーティング Active Directoryのサイトに基づくルーティング

Exchange 2007への移行準備