文・石井恭子(日立総合計画研究所社会システム・イノベーショングループ 主任研究員)

 「見える化」は、これまで主に日本の民間企業の製造現場で導入されてきた改善手法です。業務の棚卸を実施することによって、隠れている問題を発見し、関係者間でその情報を共有することで意思統一を図れるため、改善に向けた行動が比較的簡単にできるようになることが特徴です。

 「見える化」の例としては、「あんどん」が有名です。トヨタ自動車の製造現場で、数字を配置した電光掲示板を掲げておき、特定の数字が光るとラインのどこで問題が生じているのかを現場の誰もが確認できる仕組みです。「見える化」により、問題を迅速に発見することができ、また誰もが見えるようにすることで、関係者一同で情報を共有することができます。

 「見える化」は分かりやすい優れた手法であるため、管理部門や営業部門など、製造現場以外でも応用されるようになっています。近年、行政部門でも「見える化」が取り入れられるようになっています。業務の改善に用いることを考えると、適用範囲は広いと言えますが、大別すると内部の業務改善と住民向け行政サービス向上の二つの目的で導入されています。

 内部の業務改善については、滋賀県の例が挙げられます。滋賀県は、「IT調達/業務改革最適化のための体制について」としてITガバナンスの強化に取り組んでいます。IT調達におけるPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルの現状について、Plan(システム企画・基本設計)の段階で業務プロセスの明確化が不十分であるという問題点を挙げています。その対策として業務プロセスを「見える化」し、システム化の前段階として業務の簡素化や共通化を図っています。

 一方、行政サービスの向上については、国土交通省の関東地方整備局の「道路見える化計画」が挙げられます。交通安全や渋滞解消といった道路行政の課題について、データを活用して分析し、実態を明らかにしました。その上で各県ごとにデータに基づく「見える化プラン」を策定して、交通安全対策や渋滞解消策を講じています。定量的なデータを用いて分析したことで、地元の住民にも問題点が見えるようになり、事業の際に協力が得やすくなったという効果が指摘されています。

 今後、行財政改革が政府や地方自治体で進展するにつれて、「見える化」もさらに導入が進むと考えられますが、その際留意すべきポイントを5点挙げます。

 第一点目は、明確な導入目標を設定することです。また、目標設定に伴って数値化可能な KPI(Key Performance Indicator)を定めることです。何のために導入するのか、目指すゴールは何かをあらかじめ決めておき、そのゴールを誰もが分かるように数字で示すことが重要です。

 第二点目は、都合の悪い情報も含めて積極的に「見える化」することです。「見える化」の最大の特徴は、問題点を発見し改善を図るところにあります。都合の悪い情報を隠ぺいできる仕組みでは導入する意味はありません。そのため、導入の際には、職員の職位に関わらず自ら進んで「見える化」に取り組む仕組みを構築することが大切になります。

 第三点目は、場合によっては住民も含めたステークホルダー(利害関係者)全員が参加することです。そのためには、情報を共有していくことがまず必要となります。関係者全員で共通認識を持った上で解決法を考えることで、解決策の納得性や実効性も高まります。

 第四点目は、必ずPDCAサイクルをまわすことです。状況は当然変化しますから、定期的に実施状況を評価し、改善を図り、次の目標に反映させることが大事です。

 第五点目は、導入の際にはITの使い方を明確にしておくことです。ITを使うことで、膨大なデータを整理し、分かりやすく表示することはできますが、それだけで業務の改善を実現することはできません。例えば、初期段階から、どういうデータを誰が入力し、それをどのように活用して改善を図りたいのか、といったITの使い道を決めた上で使うことが重要であると言えます。